研究課題
近年の光機能性有機材料開発の進展に伴い、複雑な分子構造を持つ物質の光誘起現象が研究対象となりつつある。これらの研究において重要性を増しているのが、単結晶X線構造解析による光誘起化学種の「その場観察」である。一方、中性子はX線に比べて水素原子や磁気秩序を明瞭に観察でき、加えて低温のような極端条件下での回折測定が容易である。これらの特徴を生かした“in-situ光照射単結晶中性子構造解析”が実現できれば、低温下でトラップした光誘起準安定構造における水素原子、磁気秩序の観察が可能となり、有機光機能性材料の研究において極めて有効な分析手法となる。そこで本研究では、単結晶中性子構造解析による光誘起現象の「その場観察」法を確立することを目的としている。平成25年度は、本研究における核となる低温/光照射下での単結晶中性子回折測定を可能とするin situ光照射回折測定システムとして、24年度に製作を行った4K冷凍機に対して耐真空ライトガイドの組み込みを行い、システムを完成させることができた。このシステムでは冷凍機先端部のコールドヘッドを3.0Kまで冷却することができるとともに、ライトガイドを経由した白色光の試料への照射ならびに光学ポートを利用したレーザー光の試料への照射が可能となっている。また、平成25年度は中性子の特徴を生かした機構解明が期待される「励起状態プロトン移動(ESIPT)」を伴う有機発光材料として2-(2’-hydroxy-naphthyl)benzazoleおよびその誘導体の合成および結晶化を行い、このうち2-(2’-hydroxyphenyl)benzimidazole (HPBI)について2.0x1.0x0.3mmというサイズの単結晶を得ることに成功するとともに、光OFFの初期状態についてJ-PARC・MLFのBL18に設置された回折計SENJUを用いた単結晶中性子回折測定を行った。回折測定は室温と4Kで行い、いずれの温度でも構造解析に十分な数のブラッグ反射を観測することに成功した。現在解析を進めている。
3: やや遅れている
本研究の核となる光照射回折測定用4K冷凍機については製作後に標準試料を用いたオンビームテストを予定していたが、J-PARC・ハドロン実験施設の事故に伴うMLFの運転停止に伴い、予定していた光照射回折測定システムのテストを十分に行うことができなかった。しかし、本研究における一番のネックと考えていた中性子用単結晶試料の調製に成功し、実際の中性子回折測定まで終えることができたことから、遅れはわずかと考えている。
本研究の最終年度である平成26年度は、HPBI単結晶の低温光照射下での単結晶中性子構造解析を行い、光照射によるESIPTによって生じる準安定構造の観察を試みる。また、本研究では光照射で誘起される磁気構造変化の中性子による観察も目標としており、その標的として光誘起スピン転移(LIESST)によって強磁性あるいは反強磁性を発現する幾つかの候補化合物について合成と単結晶の調製、更には光照射条件下での中性子回折測定を試みる。これらの結果は論文にまとめるとともに、秋から年度末に行われる学会での発表を予定している。
当該助成金については、当初購入を予定していた光照射回折測定システムオンビームテスト用治具および消耗品の一部について、納期が年度末に間に合わなくなったため、次年度繰越とした。今年度は繰越金を単結晶中性子回折測定用治具、消耗品の一部に充てた上で、交付申請書の計画にのっとって研究を進めていきたい。
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