研究課題/領域番号 |
24681018
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
池田 勝佳 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (50321899)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | プラズモン / ナノ構造 / 機能性 |
研究概要 |
ナノ空間に閉じ込めた光は,物質系の電荷やスピンと強く相互作用すると予想される。光の閉じ込めを,磁性材料や超電導材料を用いて実現できれば,スピン・電荷・フォトンが協同的に結合した新規機能性の発現が期待される。ところが,磁性や触媒活性等のd電子特有の機能を有する金属種は光学周波数領域での誘電損失が大きく,光の閉じ込めには不向きである。本研究では,「d電子機能性」と「キラル構造に基づく非相反応答化」を導入したプラズモニック構造構築により,複合機能性を持つナノ構造の構築と局在光に本質的な協同現象の発現を目指している。 平成25年度の研究においては、d電子の局在性が強いPdのプラズモン共鳴特性を主な対象として実験的検討を行った。Pdの水素吸蔵による電子状態変化を利用し、プラズモン共鳴の動的制御が可能になったことを受け、プラズモン共鳴の強度と変化率の両立を目的としたPd-Ag積層やPd-Au積層のナノ構造を開発し、その最適構造の設計指針を明らかにした。その結果、プラズモン共鳴ピークが40nm可逆にシフトする光学応答を実現した。 スピンと局在光の相互作用については、Niナノ構造をベースに検討を行った。前述の積層型ナノ構造に関する知見を利用し、Ni-Ag積層ナノ構造を構築した。ナノ構造体の局所磁性について磁気力顕微鏡による観察を行ったほか、磁気光学効果の計測を実施し、プラズモン共鳴と相関のあるスペクトルを得た。現状ではナノ構造体の磁気特性に向上の余地があり、金属蒸着条件の工夫によって磁気力を高めることで、さらに大きな相互作用効果の発現が期待される。また、Niも水素吸蔵を示すことから、スピン状態と電子状態の同時制御による局在光との相互作用変調についての基礎的検証が期待される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでプラズモン研究ではほとんど利用されていなかった金属種について、理論と実験の両面からプラズモン共鳴特性の強度と機能性の両立を実現するための最適なナノ構造設計を行った。その結果、機能性を保持したままで強いプラズモン共鳴を得るには、2元金属の積層ナノ構造が最も優れていることを見出した。この成果は、本研究の主目的である機能性プラズモニック構造を実現する上で根幹を成す技術である。 この結果を受け、Pdの水素吸蔵を利用した電子状態変化により、プラズモン共鳴ピークを40nmも可逆に変化させることに成功し、その効果について実証した。スピンとの融合においても、積層型ナノ構造の利用によって、磁気光学効果を示すプラズモニック構造の作成に成功した。 以上より、研究計画に従って研究が進行している状況にある。
|
今後の研究の推進方策 |
研究計画に従って、これまでに機能性プラズモニック構造として金属電子状態制御とスピン導入の検討を行ってきた。本年度は、更にキラリティーとプラズモン共鳴の複合化について検討を進める。金属ナノ構造自体のキラル構造導入やキラル分子による表面修飾によってキラルなプラズモニック構造を構築する。また、これらの3要素を組み合わせた複合機能に基づく新規な協同効果の発現について検討を進める。非相反性かつ低い空間対称性を持つナノ空間では、時空間対称性に関連した特異な光学特性が期待され、ナノ空間の電子状態変調による協同効果の外部変調について検討を行う。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、磁気光学効果の測定において、近赤外領域で測定可能な装置を自作する予定であった。本年度の研究の進展により、ナノ構造のプラズモン共鳴特性の設計自由度が高まった結果、市販装置での測定が可能な状況となった。このため、装置の自作を取りやめ、市販装置を借りて計測を行った。その結果、25年度分に予定していた磁気光学測定装置の自作分の物品費を節約することが出来た。 次年度使用額は、UVオゾンクリーナーの購入に充てる。この装置を導入することで、金属ナノ構造の表面清浄化を迅速に行うことが可能になり、表面へのキラル分子導入によるプラズモニック光学活性発現や、表面反応を利用した金属電子状態制御によるプラズモン共鳴変調などの実験において、効力を発揮すると期待される。したがって、研究計画の速やかな進行を強化できる。
|