本年度では、DNAのナノポア通過速度の高速化に伴う塩基分子識別精度・確度の劣化を重点的に調べ、更に、トンネル電流計測のために印加するバイアス電圧を高く設定し、ナノ電極間隙間の静電場によるDNA塩基分子配向制御を取り入れることで、塩基分子配列識別性能の向上を図り、ゲーティングナノポアDNAシークエンサーのデバイス設計指針を示すことを目的とした。そこで、まずナノ加工機械的破断接合(MCBJ)を改良した絶縁被覆MCBJ素子を開発した。この新規ナノ構造を用いることで、先端部を除く電極表面が二酸化珪素で覆われたナノ電極系を作製することに成功した。これにより、電解質溶液中でのトンネル電流計測時に生じる電極間のイオン電流は1桁以上小さくなり、より精密なトンネル電流測定が実施可能になることを確認した。このことを利用し、実験では更にトンネル電流を指標とした電極間距離校正法を創成し、これを用いて水溶液中におけるトンネル電流計測を指標とした単分子検出を実証すると共に、電極間に生じる電界と分子の分極間に生じる相互作用がトンネル電流計測結果に与える影響を評価することに成功した。そして、1分子トンネル電流計測法を応用したアミノ酸の単分子識別を実証した。なお当該デバイスでは、絶縁被覆膜が接合を機械的に補強する役割も担うことから、従来MCBJに比してナノ電極の機械的安定性が飛躍的に向上することを発見した。これは予想以上の結果である。
|