本研究は,従来行われてきた不純物を利用した薬物指紋法ではなく,農薬を構成している水素,炭素,窒素安定同位体比を測定することで,国内外の産地の推定や商品ごとの識別を目指している。安定同位体比は石油,石炭,食品などの生産地や生成過程により特徴を有すことが既に証明されており,農薬類の識別にはまたとない指標となり得ることが予想される。具体的には,近年開発された個別化合物安定同位体比質量分析計(GC/C/IRMS及びLC/IRMS)を利用し,農薬を構成している炭素及び水素安定同位体比を高精度分析し,国内産か海外産,また商品ごとの識別を目指す。 平成24年度は,GC/C/IRMSに液体窒素を用いたクライオフォーカスの融合した装置を用いて,近年中国産冷凍餃子問題でも話題になったメタミドホスと農薬疑義資材(夢草,健草源等)に含まれるシペルメトリンの高精度分析法の開発及び異同識別を行った。その結果,クライオフォーカスを用いることでさらに低濃度域においても高精度分析法を確立することが出来,また異同識別も可能になった。 平成25年度は,秋田県内で使用している農薬類12種の高精度分析法の開発及び異同識別を行った。 平成26年度は,農薬中の水素安定同位体比の測定を行い,また熱安定性の低い農薬類や,水溶解性の高い農薬類の測定のためにLC/IRMSを用いて,数成分の農薬の高精度分析を行うことができた。また,イオンクロマトグラフとLC/IRMSとの融合も電気信号も含めて実施することが出来た。
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