研究課題/領域番号 |
24681040
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
関 由行 関西学院大学, 理工学部, 准教授 (20435655)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 多能性幹細胞 / 生殖細胞 / エピジェネティクス / DNAのメチル化 / リプログラミング |
研究実績の概要 |
多細胞生物を構成する細胞は、生殖細胞と体細胞の2種類に分けることができ、生殖細胞は次世代の個体を新たに生み出すことで生命の連続性を維持することができる極めて特殊な細胞である。そのためには、すべての細胞を生み出すことできる「多能性」を獲得することが必要であり、多能性を獲得する現象は「初期化」とも呼ばれる。細胞を初期化するためには、元々細胞が持っている遺伝子発現制御に関わる記憶、所謂エピゲノム情報を消去する必要がある。本研究では、生殖細胞の出現に必要であるPRDM14によるDNAメチル化消去活性に着目し、その分子機構と生命機能の解明を試みた。 その結果、PRDM14はメチルシトシンの酸化酵素であるTETタンパク質と塩基除去修復経路を介して、多能性関連遺伝子、生殖細胞特異的遺伝子、ゲノム刷り込み領域を能動的に脱メチル化することを見出した。また、ES細胞からエピブラスト様細胞(EpiLC)へ分化誘導を行った後にPRDM14を誘導的に発現させたところ、ES細胞様細胞(ESCLC)への脱分化が誘導され、PRDM14による脱分化誘導活性は、Tet1/Tet2のノックダウン及び塩基除去修復阻害剤で抑制された。さらに、iPS細胞の誘導活性があるOCT3/4とKLF2に着目し、PRDM14の発現誘導後の発現変動、標的遺伝子への結合及びエピゲノム変化解析を行った。その結果、PRDM14はKlf2のエンハンサー領域に存在するDNAメチル化をTET-塩基除去修復経路依存的に消去し、OCT3/4の結合を促進することで、Klf2の遺伝子発現の誘導を行っていることが明らかとなった。本研究により、PRDM14がDNA脱メチル化を介して多能性を保証する転写因子ネットワークの安定化に寄与することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PRDM14による脱メチル化誘導反応にメチルシトシンの酸化酵素であるTETタンパク質と塩基除去修復経路が関わること、またその反応がPRDM14による多能性獲得活性に寄与していることを証明することができたため。
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今後の研究の推進方策 |
本研究によって、生殖系列の成立に必要な因子PRDM14にTET-塩基除去修復を介したDNA脱メチル化誘導活性があること、またPRDM14によるDNA脱メチル化は多能性獲得に重要であることが明らかとなった。今後必要な研究は大きく分けて2つある。 1つ目は、PRDM14によるTET-塩基除去修復経路の活性化機構の解明である。これまでの解析によってPRDM14がTET-塩基除去修復経路によるDNA脱メチル化反応を促進することは明らかとなったが、その動作原理は未だ不明である。PRDM14は、中央部分にリジンのメチル化活性の責任ドメインであるSETドメインと相同性の高いPRドメインと、C末端側にC2H2タイプのジンクフィンガードメインを持っている。N末端領域内には一次配列から推測できる機能ドメインは存在しないが、TET1/TET2との相互作用に必要であることが分かっている。今後、PRDM14がTETの機能に対してどのように作用するのか、PRDM14-TET複合体の構造生物学的解析が必要であると考えている。 2つ目はPRDM14の人為的機能制御法の開発である。PRDM14による能動的脱メチル化反応能を人為的に制御できれば、iPS細胞の作製効率、品質の向上や新規抗癌剤の開発に繋がる可能性が期待できる。PRDM14の構造生物学的解析からPRDM14分子内の相互作用ドメインの構造を予測し、最終的には構造元に既知低分子化合物のスクリーニングや新規低分子化合物の合成が必要である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定した次世代シークエンサーを用いた解析を次年度に行うことになったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次世代シークエンサー委託費用
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