器官形成において、細胞は自律的に集まって機能的な細胞集団、すなわち「細胞社会」を構築する。しかし、in vitroで細胞を寄せ集めても、集団としての社会性は獲得されない。いったい、どのように社会性は獲得されるのだろうか? 本研究では、ゼブラフィッシュ胚の尾部にあるクッペル胞(KV; Kupffer’s vescile)の形成をモデルシステムとして用い、この現代科学の問題に挑んだ。KVの形成は、原腸陥入期に20-30個のKV前駆細胞の集団の出現により開始され、その後この集団は、正中線上を植物極側へ移動し、シリア(微繊毛)を持つ上皮細胞へと分化し、球状に配置され、小器官(KV)を構築する。KVはシリアを反時計まわりに回転させることで、ノード流と呼ばれる水流をつくり、内臓の左右非対称な配置を規定する。これまでに我々は、発生生物学的な手法により解析し、FGFシグナルの正のフィードバック機構がKV前駆細胞の集団形成に不可欠であること、集団形成不全が左右差疾患を引き起こすことを突き止めた。さらに、レーザーアブレーション実験等を行ったことで、KV器官形成に必要な最小細胞数を明らかにすることができた。この成果は、再生医療などで、器官を試験管内で再構築しようとする際に、有用な基礎データとなると考えている。
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