研究課題/領域番号 |
24681050
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
石井 弓 東京大学, 東洋文化研究所, 特別研究員(PD) (50466819)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 記憶 / 日中戦争 / 対日協力 / 語り / コミュニティ / オーラルヒストリー / 歴史 / 集合的記憶 |
研究実績の概要 |
■フィールド調査 1)2015年4月1日~6日に、中国山西省盂県農村部において、日中戦争期の対日協力者の実態とその記憶及び、雨乞い活動の復活について①中華人民共和国初期の雨乞い、②文革期の雨乞いの禁止、③80年代の雨乞い復活の聞き取り調査を行った。文革期に「迷信」として禁止された「神婆」(神降ろし)の復活についても、「神婆」本人にインタビューを行った。2)9月4~9日に、中国山西省盂県農村部において、①盂県全土で2000年間続いた雨乞いの伝統や伝説の中心地である「蔵山」のフィールド調査、②蔵山と同様だが小規模の雨乞いコミュニティを形成してきた南社村、③南社と雨乞いの神像を共有した村々及び④それらの村々と「神親」(神の親戚)の関係を結んできた陽曲県の晏村での調査を行い、雨乞いのコミュニティの全体像を把握した。また、日中戦争期の対日協力についての聞き取りも行った。3)2月22~29日、中国山西省盂県農村部にて、追加の調査を行い、山西大学では、歴史学研究者との研究交流及び資料収集を行った。 ■論文執筆及び口頭発表 上記調査に伴い、書評1本及び論文4本の執筆を行った。また、口頭発表として、7月には東京大学における、プリンストン大学サマーセミナーでの講演を行い、11月5~8日に韓国漢陽大学で開かれた国際学会で発表を行った。同発表及びそれに伴い執筆した論文において、戦争の夢の分析を通じて、メディア、生活空間、そして時代性が如何に絡み合って記憶を構成するかを再考することができた。 ■その他 カナダオーラルヒストリー学会機関紙であるOral History Forum d'histoire oraleにおける特集号Generations and Memoryの編集を行った。特集号は2016年度に発刊予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
産休取得によって研究計画は大幅に遅れていたが、本年度は学振PDという立場で集中的にフィールド調査と論文執筆を行うことができたため、遅れを解消することができた。 フィールド調査では、目標のひとつであった日中戦争期における対日協力者について、その実態と、村での語り、そしてその語りが如何に伝播するかについて聞き取りを行い、論文「日中戦争における対日協力者の記憶」を執筆した。これによって、日中戦争の記憶を巡る論点が「対日協力」というテーマに集約されていることを確認することができ、今後の調査及び研究の方向性を定めることができた。 本年度執筆した4本の論文は、質量ともに高い水準を保持することができた。特に、「中国農村における戦争記憶と媒体ー映画、語り、夢」は、聞き取り調査をもとにした戦争の夢の分析を通じて、一定の地域で、複数のメディアが如何に絡み合いながら戦争の夢(集合的記憶)を構成するかを論じ、具体的な事例を用いた記憶論の再考につながった。 以上により、成果発表及び研究の発展の両面において、おおむね順調に進展したと考える。
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今後の研究の推進方策 |
「記憶の再考」という研究テーマについては、日中戦争期における対日協力者の実態及びその記憶に注目した研究を進める。「順口溜」(覚え歌)に歌われた対日協力者像とそれに対する村人たちの現在の語りを比較し、また、対日協力の記憶がコミュニティにもたらした意味を考えていく。そうすることで、公的な歴史に対して、民間の記憶が如何に関連しながら、中国山西省の村落コミュニティを維持してきたのか、社会主義中国の歴史の荒波を、一人ひとりの村人がいかに生き、何を考えてきたのかを見通すことができると考えている。「対日協力」というテーマは、中国ではいまだに自由に語ることが難しい。しかしながら、日中戦争において敵でも味方でもない中間的な存在であった対日協力者たちは、戦争実態の複雑さや、戦後の記憶の語られ方の問題を理解する解となる存在であるため、今後の研究でも集中的に取り上げた行きたい。 本年度は特に論文執筆に注力したが、来年度以降は執筆を通してその必要性が見出された、オーラルヒストリーの分析方法の刷新や新たな分析概念の導入を目指す。そのために学会発表やシンポジウムへの参加によって、分野を超えた研究成果や分析枠組みを吸収し、日中のみならず英語圏の学界に通じるような研究成果を創出していきたい。
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