本研究の目的は古代メソアメリカ文明における初期国家の形成プロセスを解明することにある。メキシコ中央高原では後2世紀頃、テオティワカンで古代国家が形成された。しかし、先行研究ではこの国家形成プロセスを考察する際、先行社会との繋がりを重視せず自生的に発展したとの観点から議論されている。本研究では、この問題を解明するため歴史的連続性と自然環境の影響力を重視し、先行社会の中で先導的役割を果たしていたトラランカレカ遺跡で考古学調査を実施している。 本課題研究の最終年度である平成26年度では、①トータルステーションを用いた地形測量と等高線三次元地図の作成、②表面採集調査、③ボーリング調査、ならびに④発掘調査を実施した。①地形測量は主要ピラミッド群、人工洞窟、天文観測施設と考えられる環状列石広場で行い、当時の規模や建築方位軸などを知るための情報を収集した。②表面採集調査からは、この遺跡の最盛期における推定範囲を推測することができ、先行研究で指摘されていた範囲よりも広かったことが理解できた。③この調査を当遺跡の中心地区(エリート祭祀施設)で集中的に実施した。層位学に基づき土壌サンプルを回収し、南フロリダ大学で比色計と誘導結合プラズマ発光分光機分析が実施された。結果、地表下約2.5mから高レベルのリンが検出され、この空間が食糧消費活動と深く関わっていたと理解された。④発掘調査からは、精緻な土器編年を確立するための遺物を回収できたのみならず、当時の建築方位軸、建築技術、専門集団の存在などを理解するためのデータを得ることができた。 これらの成果を基に、京都外国語大学で、写真展「メソアメリカ、古代都市の起源を探る-トラランカレカ考古学プロジェクト-」(会期:2014年12月15日から2015年1月31日)を開催し、国内外における研究成果報告のみならず、一般社会への情報提供も行った(備考参照)。
|