本研究課題は、健康の社会的決定要因として、個人を取り巻く社会環境、地域に焦点をあてている。地域そのものの経時的な特性と、地域に居住する住民の地域意識が、住民の健康とどのような関連しているのかを明らかにすることを目的としている。地域住民の地域意識としては、彼/彼女らがもつ〈不安〉感がおおきな要素であることを昨年度までに明らかにしてきた。 そこで本年度は、これまでに収集してきた社会調査データを用いて、〈不安〉と健康との実証的な解析をおこなった。はじめに、ミクロレベルでの〈不安〉と健康との関連について検討した。自身の人生の最終段階における死について自宅で療養できると思うかどうかという終末期における健康意識をアウトカムとして不安との関連を検討した。その結果、地域や収入、職業など直接的な社会経済的要因が関連するのではなく、生活そのものに対する不安が関連していると考えられた。つぎに、自身の健康をどのようにとらえているのかという健康志向をアウトカムにして、不安との関連を検討した。その結果、経済的に不安を覚える女性は健康を志向することが明らかになった。 つぎに、マクロレベルでの〈不安〉と健康との関連について検討した。社会不安に関わる高い高齢化や高い失業率などの社会構造をもつ地域は、とくに若者の精神的健康に関連する可能性が示唆された。 このように、今年度はミクロ/マクロレベルで〈不安〉と健康との関係を検討してきた。個人レベルにおいても地域や社会構造レベルにおいても、地域に居住する住民は何らかの不安を感じているという意識を持つことで、自身の健康に影響があることが明らかになった。このことから、人びとの生活安寧を保つための社会経済的環境を制度的に整備することが必要であると考えられる。また制度上だけでなく、社会で生きるわれわれの人間性の成熟化が求められると言えよう。
|