研究課題/領域番号 |
24684002
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤野 修 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (60324711)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 極小モデル理論 / モジュライ理論 / 混合ホッジ理論 / 半正値性定理 / 射影性 / 高次元代数多様体 / 安定多様体 |
研究概要 |
平成25年度の一番の成果はOsamu Fujino, Taro Fujisawa, Variations of mixed Hodge structure and semipositivity theoremsなる論文を完成したことである。私の記憶が確かなら、この論文の最初のバージョンは2009年頃に作成したはずである。その後、関連分野の発展、証明の手直し、更なる一般化などに時間がかかり、このたびやっと完成である。この論文内では、Fujita--Kawamataの半正値性定理と呼ばれる定理を一般化している。ホッジ理論的な観点からすると、Fujita--Kawamataの定理は純な話で、今回の我々の結果はその混合化である。幾何学的には一般ファーバーが非コンパクトな単純正規交叉多様体を念頭においている。私がここ数年推進して来た結果の相対版とも見なせる。いずれにせよ、今後の高次元代数多様体の研究に不可欠な強力な道具を提供出来たはずである。 上記結果の応用としては、安定多様体のモジュライ空間の射影性の証明がある。安定多様体のモジュライ空間は、安定曲線のモジュライ空間の高次元化の一つである。モジュライ空間自身は最近の高次元代数多様体論の発展を用いて構成されている。ただ、モジュライ空間は代数空間のカテゴリーで構成されており、モジュライ空間の射影性等については未解決であった。この結果は既にプレプリントとして配布済みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
25年度の研究成果には満足している。ここ数年の研究に関しては、おおむね順調に進展していると言って良いと思う。 2006年の秋にBirkar--Cascini--Hacon--McKernanの4名が極小モデル理論の大予想を解決した。この論文はBCHMと呼ばれ、それ以降の研究に大きな影響を与えている。もともと天の邪鬼だった私は、BCHMとは違う方向に極小モデル理論を発展させる方向を選んだ。2007年から2009年頃にかけて、かなり劇的に極小モデル理論の基礎理論を拡張することに成功したと思う。ただ、残念なことに、流行に背を向けた私の研究を理解してくれる人は皆無であった。その結果、論文を書けども書けども投稿した論文は掲載拒否になるという悲しい状態になってしまっていた。そのようなつらい時期を数年過ごしたのであるが、ここ数年は少数ながらも私の研究内容に興味を持つ若い研究者が出て来たようである。平成25年度の一番の成果は、2009年から行っていた藤澤氏との共同研究の完成であった。現在は2007年から2009年にかけて執筆したが未出版のまま放置している原稿の改訂作業を行っている。このようにかなり時間が掛かっているが、それなりに大きめの仕事が一つずつ完成していっている状況である。毎年毎年研究成果の報告を求められるご時世であるが、目先の小さな業績ばかりを追わず、質の高い研究を追求していきたい。ちなみに、平成25年度も対数的標準特異点を持った代数多様体の極小モデル理論についての論文、擬対数的スキームについての論文2本を執筆し、投稿した。これらはBCHMではカバー出来ない部分であり、今後の極小モデル理論で有効に活用されることを期待している。
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今後の研究の推進方策 |
今まで通り高次元代数多様体の双有理幾何学の研究にエネルギーの大半を注ぎ込む予定である。ただ、2007年頃からの私自身の仕事の成果によって、極小モデル理論の基礎部分はほぼ完成してしまった。したがって、今後はアバンダンス予想やフリップの停止問題。対数的標準多様体の対数的標準環の有限生成性などの未解決問題の攻略が大きな目標になる。しかし、上記未解決問題達は1年や2年で解けるような簡単な問題のようには思えない。今までの理論の延長で解けるのかどうかはよく分からない。そこで、平成26年度からは長期的な戦略を練りたい。今後は5年や10年というスパンで問題に挑戦する必要があると思う。ここ数年間はホッジ理論的な側面を重視して研究を行って来たが、おそらくホッジ理論的な手法だけでは限界があるように思われる。今後は解析的手法等も有効に活用したいと思っている。また、ホッジ理論的な側面の研究もさらに深めたい。 いずれにせよ、ここ数年かけた研究が一段落しつつあるので、平成26年度は次の研究のための充電期間にしたい。10年20年先に花開くような研究をしてみたいと思う。このような状況なので、短期的には研究活動が停滞しているように見られるかもしれないが、焦らずにじっくりと次のターゲットを選定したい。焦って流行に乗って誰にでも書けるような論文を書くのは不本意である。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費のかなりの部分は国内外への出張旅費として使用する予定であったが、思ったより出張に出かけられない状況が続いている。以前と比べ、講義期間中の出張がかなり行き辛くなっている。講義を休講にすることがなかなか許されない状況である。また、夏休み等の講義のない期間も、大学院入試、留学生のための大学院入試、オープンキャンパス、公開講座など、研究以外のイベントが盛りだくさんである。このような状況なので、微妙に予定よりも出張が少なめになっている。もっと研究に専念出来る状況を実現して欲しいものである。 とりあえず繰り越し分は5月のフランス出張で使い切る予定である。ただ、上に述べたように研究以外のイベントが盛りだくさんで出張に行き辛い状況がつづけば、同様のことが繰り返される可能性は高いと思われる。いわゆる雑用が年々増えてきて、なかなか研究に専念するのが困難になりつつあるように思う。悲しい状況である。
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