研究課題/領域番号 |
24684002
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤野 修 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (60324711)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 半対数的標準対 / 混合ホッジ構造 / 極小モデル理論 / 安定多様体 / 藤田予想 / 半正値性定理 / 消滅定理 / 擬対数的スキーム |
研究実績の概要 |
平成27年度の最大の成果は、半対数的標準対に対する半正値性定理をコホモロジーの消滅定理の応用として得たことである。半対数的標準対に対する半正値性定理は安定多様体のモジュライ空間の射影性の証明に不可欠な重要な結果である。コンパクト台コホモロジーに入る混合ホッジ構造の変動の理論をつかうことにより、半対数的標準対に対する半正値性定理は2012年に証明されていた。この結果も私の結果である。その2012年の証明は、混合ホッジ構造の変動の理論をつかうので、世間では難解な証明と認識されているようである。今回新たに得た証明方法では、混合ホッジ構造の変動の理論は不要になり、コホモロジーの消滅定理という比較的近づき易いテクニックで半正値性定理が得られる。ただし、コホモロジーの消滅定理もコンパクト台コホモロジーに入る混合ホッジ構造の理論に依存しているので、それほど簡単な話ではない。いずれにせよ、重要な結果に新たなアプローチを見つけたことは、今後のこの方面の発展に役立つはずである。
別の話題としては、半対数的標準対に対して藤田の自由性予想を定式化し、2次元以下の場合に解決した。これは擬対数的スキームの理論の応用である。私が学生の頃は、半対数的標準対については定義と2次元の場合の基本的な結果があるだけで、コホモロジー論的な議論は全く開発されていなかった。ここ数年の私の一連の仕事により、半対数的標準対の世界でも自由にコホモロジー論的な手法が利用可能になった。コホモロジー論的な手法が十分すぎるほど一般性をもって確立されたので、上記のような研究が可能になったのである。
今後も今まで以上に頑張って研究を押し進めたいと思う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究に関しては、当初の予定より進展していると思う。半対数的標準対や対数的標準対の研究を中心に、ここ数年は順調に研究が進んでいる。成果はマメに論文としてまとめ、雑誌に投稿している。研究自体は非常に順調に進んでいるのだが、研究成果の発表で問題が生じている。私は天の邪鬼で、流行にはのらず独自路線で研究したいと常々思っている。また、主に未解決問題の解決を目指すプロブレムソルバータイプの数学者でもない。自然な枠組みを整備し、その新しい枠組みの中では難しい問題が自然と解けていくような数学の理論を構築することが夢である。このような研究スタイルなので、なかなか研究成果を評価してもらえず、論文の査読にとても長い時間を要することが多々ある。私は比較的費用対効果が悪そうな研究対象を選ぶ傾向がある。私が研究を始めた頃は、半対数的標準対は明らかに費用対効果が悪そうな研究対象であった。その半対数的標準対の世界にコホモロジー論的な手法を確立したことは大きな成果だと思う。この私の成果に興味をもつ研究者はそれなりに存在すると思う。ただ、その後、この新しいコホモロジー論的手法を駆使して解けそうな問題を片っ端から私が一人で解いていったので、この方面の研究に新規参入する研究者が全くいなくなってしまった。その結果、私の論文を査読出来る人が皆無の状態になってしまっている。なので、論文を投稿しても査読が上手く機能していないように思える。上の研究実績の概要で述べた安定多様体のモジュライ空間の射影性の話も未だに雑誌に掲載が決定していない。論文を投稿してから最初のレフェリーリポートを受け取るまで約3年間待たされた。研究のオリジナリティーが上がれば上がるほど論文が評価されなくなるという悲しい状況である。研究は確実に進展しているが、査読はなかなか進んでいない。
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今後の研究の推進方策 |
上に述べているように、研究は予定より順調に進んでいる。ただ、論文の査読に非常に時間がかかり、なかなか論文がアクセプトされないという状態がずっと続いている。もちろん今後も独自路線で研究は推進し、流行とは関係なく、自分が重要だと思った面白い話題を中心に研究を続けていきたい。オリジナリティーが上がれば上がるほど理解者が減り、研究成果を評価してくれる人が減り、その結果私の数学者としての評価が年々低下している気がするのだけが悲しい点である。ただ、ここで流行に擦り寄ると敗北だと思うので、今後も天の邪鬼でいきたいと思う。平成28年度からは大阪大学で研究を続ける。7年半在籍した京都大学の数学教室を離れ、新天地の大阪大学での研究活動になる。基本的に一人で研究するタイプなので、今までと大差ない研究活動を続けていく予定である。ただ、新しい環境で十分研究をやっていけるのか少し不安も感じている。
毎年毎年同じことを書いているような気がするが、当面の目標は、Foundation of the minimal model programなる本の原稿を出版することである。この本の原稿は2007年に書いた未出版の論文二つが出発点で、その後紆余曲折を経て現在のバージョンが存在する。現在レフェリーが頑張って読んでくれているはずである。可能なら平成28年度中に出版したいと思う。28年度から新天地大阪大学に研究拠点を移すので、今までと少し毛色の異なる研究も始められたらよいかな?とも思う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究は順調だったのだが、27年度は体調が悪かった。40歳を過ぎて身体のあちこちに不具合が生じている感じである。27年度の一番の問題は尿路結石であった。結石が尿管につまり、激痛で研究教育活動が何度か中断された。結局数ヶ月間結石が尿管に留まっていた。その間、微妙に出張を控えめにしたので、科研費を繰り越すことになった。
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次年度使用額の使用計画 |
おそらく28年度の早い段階で出張旅費として使用することになると思う。ただし、京都大学から大阪大学への異動にともない、すぐに繰り越し分の科研費を使用出来るのかどうか不明である。いずれにせよ、前期の間に出張旅費としてつかう予定である。
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