研究課題/領域番号 |
24684016
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
寄田 浩平 早稲田大学, 理工学術院, 准教授 (60530590)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ヒッグス粒子 / LHC加速器 / ATLAS実験 / 高速飛跡トリガー / τ粒子 / 第三世代粒子 / 高輝度 / VME,ATCA回路 |
研究概要 |
本研究は(1)ヒッグスとフェルミオンの結合定数の測定、(2)2高輝度LHC実験での高速飛跡トリガー回路システムの開発構築の2本柱で進めている。 (1)2012年までに発見されていた“ヒッグス粒子”は、主にγγとZZ崩壊過程の解析からであり、その粒子はスピン・パリティーも含め、標準理論と矛盾しないことを示すことができていた。本研究は、ヒッグス機構のさらなる検証としてフェルミオンの湯川結合を主眼に置き、特にττに崩壊する過程の探索を進めた。H→ττ過程は、τの崩壊モードにより三種類に分類できるが、その中でも最も発見感度の高いlephad過程を用いた。2012年迄に取得した8TeV、20fb-1のATLASデータに対して多変量解析を駆使して“信号らしさ”を計算した結果、信号領域にあきらかな超過を観測し、3.2σ(期待値2.4σ)の優位度の証拠を得ることに成功した。leplep、hadhad過程と統合すると4σを越え、世界で初めてτ粒子とヒッグス粒子の結合の存在を単独で検証することができた。 (2)2015年を目途にATLAS実験に挿入を予定しているFast trackingシステム(FTK)の回路開発を行った。実機開発としてFTKシステムの最上流でシリコン検出器から40MHz(optical fiber)で送信されるヒット情報を受信し、クラスタ化する機能をもつ受信回路の設計を行い、プロトタイプを製作してテストを行ってきた。2013年度はこの設計をほぼ完遂し、最終実機を製作、夏に完成したATCA規格で実装されるマザーボードとの接続テストを行った。また、CERNにおいて一部実機テストを行い、これまでの開発が実際に実機レベルで動作することが確認できた。また、この飛跡情報を用いた衝突点再構成法の確立と評価、τトリガーへの実装方法を検討し、高輝度下でのトリガーシステム構築を提案している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(個人的に)長年の夢であったヒッグス粒子とτ粒子の結合の直接検証を成し遂げることができた。これはヒッグス粒子がレプトンと結合することを示した初めての結果であり、学術的な意義は深い。また、FTK回路システムの設計もほぼ最終版を構築することができた。早稲田大学に構築したテストベンチとCERN現場での実装試験を相互に行うことで、効率的で確実な開発を行っており、今後の量産、他システムとの統合試験に万全な体制を整えることができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2014年は、まずこれまでの解析結果をさらに精査(系統誤差の改善等)し、7TeVのデータも加えてヒッグス粒子がττに崩壊する過程の証拠(~4σ)を示す学術論文を出版する。一方、LHC加速器は2015年春を目処に重心系エネルギーが13TeV(→14TeV)に増強され、さらに瞬間輝度も上昇させて運転を再開する。これに伴う急務な課題としては、FTKシステムの各ボードの統合試験を行うこと、また早稲田大学が制作している電子回路ボードの量産とテスト、それらを踏まえてATLAS検出器への部分挿入を完遂することが重要である。加速器再開前に磐石な状況を構築し、2015年度のコミッショニングに備えるべく研究を進めていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
2014年度は、これまでに設計・開発してきたFTK回路ボードの量産を控えている。2014年夏に予定している統合テストでの最終評価を踏まえ、秋には量産体制に入り、2015年からのLHC再稼働に準備する必要がある。また、Run2に向けたトリガーデザインや物理解析などを遂行するための海外出張費用は必須である。 FTK回路の量産に関わる費用、クオリティーコントロールのための種々機材の準備、CERN現場での統合テストや物理解析を実行するための海外出張費用が必要な状況である。 回路ボードは、4つのS-LINK receiverと2つのFPGA(Spartan6)、FMC connectorや電源・クロック等を12層のPCBに実装するように設計している。そのため、PCB基板製作費用、パーツ代や実装費用等、量産のための研究費用が2014年度後半に必要となる。
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