2014年度の業績(τレプトン湯川結合の証拠とCP測定方法の確立)を踏まえ、2015年度はトップクォーク湯川結合測定と新粒子探索に焦点を当てた。特にヒッグス粒子の質量が再構成可能な「2つのハドロン崩壊するτを含む過程」を新規に提案し、他レプトン過程と遜色無い発見感度があることを示した。一方で、Run2初期データ(3fb-1)では統計量が足りないため、より発見感度の高い「2つの同電荷レプトン+ハドロン崩壊するτ」事象の解析も同時に行った。現Run2データ量では、発見も棄却も不可能であるが、もしトップ湯川結合が標準模型通りの場合(Yf≒1)、2016年中に貯蓄予定のデータ(~20fb-1)を用いれば、3σの優位度で存在証拠を示すことができるという試算を得た。また、ヒッグス粒子だけでなく、その他の新粒子探索(新重粒子や超対称性粒子)も新たに展開した。 2つ目の柱である高速飛跡再構成システム(FTK)の開発も大きく進展した。早稲田大学グループが開発・設計・量産・試験まで首尾一貫して行った受信部の回路基板80台をCERNに輸送した。パターン記憶用の大容量メモリチップ(ASIC)の製造も完了し、動作試験を行い、CERN現地にて全システムの統合動作試験をするに至った。2015年Run2実験から新たに挿入された最内層検出器(IBL)は、データ送信のプロトコルが他検出器(Pixel/SCT)とは異なるため種々問題が発生したが、対応プロトコルをファームウェアに実装する等の改良を加えることで、データを正常に受信することに成功した。また各検出器からFTKへのファイバリングも全て完了している。一方で、早稲田大学が主担当で構築を進めている実運転対応のパターンバンク・フィット定数の生成(ビームスポットや検出器状況等が反映)も完了し、2016年度中の実運転に備え、万全の体制を整えることができた。
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