研究概要 |
本研究では、空間反転対称性の破れた結晶において強いスピン軌道相互作用がもたらす特徴的な電子状態を、走査型トンネル顕微鏡を用いた原子分解能分光イメージング測定により探索する。特に、トポロジカル絶縁体及びRashba効果に注目し、実空間・波数空間の両面からそれらが共存する特異な電子状態の解明を目指す。具体的には、重元素からなる中心対称性のない層状極性半導体BiXY(X = Se, Te, Y = Cl, Br, I)をプロトタイプ物質として組成・キャリア濃度・不純物・磁場効果に関する系統的な測定を行う。 本年度は、昨年度に引き続きBiTeIの測定を行った。この物質はn型・p型両方のバンド分散が同一表面上で共存して観測されることが角度分解光電子分光により報告されている。実空間分光イメージング測定の結果、この物質には結晶構造の積層方向が逆転した大きさ数百ナノメートル程度のドメイン構造が存在し、それぞれの表面に対応して極性の異なるキャリアが蓄積されていることが判明した。さらに、バルクキャリア濃度依存性を調べた結果、この表面キャリアによる電子定在波は、その波長が一定であるという極めて独特な特徴をもっていることを明らかにした。これは、表面キャリア濃度がバルクキャリア濃度に依存しないことを意味している。これらの観測結果は、表面に存在するキャリアが、極性結晶構造に起因する自発分極によって誘起されたことを示しており、、不純物ドーピングや外部電場に寄らない新しい両極性キャリアの誘起方法の実証したものである。
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