電極から有機半導体へのキャリア注入はショットキー障壁のため大きな接触抵抗がある。特に、電子注入の障壁を下げるためにはカルシウム等の大気中で不安定な電極を用いる必要があり、大きな問題となっている。この問題を解決するアプローチの一つに金属半導体界面におけるバンドギャップ内準位を利用する方法がある。電極界面の有機半導体の結晶構造が乱れている場合は、それによって生じるバンドギャップ内準位を通ってキャリアが注入されるため、注入障壁が低減されると考えられている。そこで、絶縁層(SiO2)表面を修飾膜で覆ってから有機半導体を蒸着し、有機半導体薄膜の結晶性を変えることでバンドギャップ内準位の密度をコントロールし、接触抵抗の低減を試みた。修飾膜にはポリメタクリル酸メチル(PMMA)とテトラテトラコンタン(TTC)を用いた。 同じ有機半導体(BP2T)の蒸着膜を活性層として用いたFETでも、絶縁層修飾膜の違いにより大きく異なる特性が得られた。電極として仕事関数の大きい金を用いると、PMMAを修飾膜とした場合はゲート電圧が負の時に蓄積される正孔の注入のみが見られたのに対し、TTCを修飾膜とした場合は正孔・電子の両方の注入が見られた。原子間力顕微鏡、走査型電子顕微鏡、X線回折、光電子収量分光法による解析の結果、TTC薄膜状に蒸着されたBP2T薄膜の方が結晶構造の乱れが大きく、バンドギャップ内準位を通る注入が増強されたことが示唆された。このことにより、金属半導体界面に意図的にバンドギャップ内準位を導入することにより、有機両極性発光トランジスタにおいて、正孔・電子の注入障壁をどの金属を電極に用いても低下させられることができるようになった。
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