研究課題/領域番号 |
24684024
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
守谷 頼 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (30548657)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 強相関電子系 / 酸化物 / ナノ細線 |
研究実績の概要 |
本研究課題ではナノ構造を用いて制御された単一の金属-絶縁体境界面における新規の伝導現象の開拓を目指して研究をおこなった。単一の金属-絶縁体境界面は1) ナノサイズの細線、2) 単結晶、3) 歪のかからない構造、の3つの条件を満たした時のみ観測される特殊な現象である。申請者は独自に立ち上げた高品質単結晶ナノ細線を用いて単結晶酸化バナジウム(VO2)ナノ細線の作製に成功し、さらに作製したナノ細線は金属-絶縁体転移時に10の4乗を超える大きな抵抗変化を示し、非常に高品質であることを確認している。さらにSiO2基板上のナノ細線においては、多数の金属または絶縁体ドメインが核生成することにより金属-絶縁体転移が進行していたが、吊り橋型構造のナノ細線においては歪みが緩和された効果により単一の金属-絶縁体境界面の生成とその伝搬により金属-絶縁体転移が進行することを見出した。平成25年度は単一の金属-絶縁体境界面をナノ細線内に制御よく注入する技術の確立を目指し研究を行った。VO2ナノ細線の金属-絶縁体転移の過程を詳細に光学顕微鏡により観測した。金属相と絶縁体相において光の吸収特性が異なるのでそれぞれの相を光学顕微鏡像において見分けることができる。その結果、吊り橋型構造のナノ細線においては歪の緩和している吊り橋型構造部分よりも、その外側に位置する歪が入った細線部分で金属および絶縁体ドメインの生成が優先的に起こることを見出した。これはSiO2基板からの圧縮歪の効果によりVO2の転移温度が無歪の場合より下がっていることに起因する。この効果を利用することにより歪んだナノ細線部がドメイン生成部分となりここから吊り橋型構造のナノ細線に単一の金属-絶縁体境界面が注入されることを見出した。これらの手法の開拓により、単一の境界面が再現性よくナノ細線に注入できることがわかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は単一の金属-絶縁体境界面と伝導電子との相互作用の解明と新規伝導現象の探索である。この課題の実現のためには、単一の金属-絶縁体境界面を制御よくナノ細線内に注入する技術を確立することが必要不可欠であり、今年のこの技術の確立を目指して研究を行った。当初の計画では、電流を電極に流すことによる局所加熱を用いた手法により、制御よく単一の境界面を注入することを目指していた。様々な試行錯誤の結果、我々はナノ細線中で歪が導入されている部分がドメインの生成効率が高いことに注目し、歪み細線部分から無歪の吊り橋型構造ナノ細線へ直接境界面を注入する技術を確立した。よって当初の計画通り境界面の注入技術を確立することに成功したといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度金属-絶縁体境界面をナノ細線中に効率よく注入する技術を確立できたため、今後はナノ細線に電流を流すことで注入された単一金属-絶縁体境界面が電流とどのような相互作用を起こすかを探索していく予定である。また金属-絶縁体境界面の位置を高精度に測定する手法の開拓も行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成25年度は当初の目的では単一の金属-絶縁体境界面をナノ細線内に制御よく注入する技術の確立を目指して研究を行ったが、当初の計画より時間がかかったため翌年度に一部持ち越すこととした。しかし技術的な課題は解決することができたため、次年度の研究を達成することに支障はないと考えている。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度は今年度得られた計画をもとに当初の計画通り研究を遂行する予定である。
|