研究課題
鉄系超伝導体ではスピンや軌道の自由度が重要な役割を果たしている。この系の超伝導を理解するには、その多様な相図に隠されたスピンと軌道の揺らぎ、及びその秩序に起因した異常物性を実験的に捉え、超伝導との関係を明確にする必要がある。これには純良単結晶の創出と精密な物性測定の融合が必要不可欠になる。本年度の研究では、1. 鉄系超伝導の主要な研究舞台であるBaFe2As2系のなかでも、特に純良単結晶が育成可能である等原子価置換系BaFe2(As1-xPx)2について、従来の手法に加えて新たにBa2As3/Ba2P3を自己フラックスとした単結晶成長を行った。これにより大型単結晶を用いた実験が可能となった。2. 上記大型単結晶を用いることで常伝導状態における熱電係数の組成依存性を調べることが可能となった。ゼーベック係数測定から見積もられる有効フェルミ温度が最適置換近傍において最も小さくなる振る舞いが見られた。これは有効質量の増大と一致し、磁気量子臨界点的振る舞いとコンシステントである。3. 上記大型単結晶により角度分解光電子分光測定での利便性が大きく向上した。特にその電子構造において、異なる軌道成分からなるバンドが分裂を起こす軌道秩序が構造・磁気相転移よりも高温において起き、同時に光電子スペクトルに擬ギャップが形成されることが明らかになった。この温度組成依存は我々がこれまでに報告したネマティック電子相と良く一致しており、軌道秩序が本質的に重要であることを示している。4. 鉄系超伝導体のなかでも最もシンプルな構造を有する11系FeSeについて、過去に例のない純良単結晶を用いた輸送現象測定、ならびに極低温における磁場侵入長測定、熱伝導率測定を行なった。超伝導転移直上において、この物質の電気抵抗が温度の一乗に比例して変化する非フェルミ流体的な振る舞いを示すことを観測した。またその超伝導ギャップ関数にラインノードが存在することが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
鉄系超伝導体の多様な相図に隠されたスピンと軌道の揺らぎ、及びその秩序に起因した異常物性を実験的に捉え、超伝導との関係を明確にするためには純良単結晶の創出と精密な物性測定の融合が必要不可欠である。そこでこれまでと同様に純良単結晶に基盤を置き、その精密物性測定を一貫して行っていく。
11系FeSeにおいて、これまでにない純良単結晶を作製し、これを用いた精密物性測定を行なうことが可能となった。そこで次年度はFeSe純良単結晶試料の作製、及び極低温磁場中における精密物性測定を行う。より残留抵抗比の高い純良単結晶試料を作製し、輸送現象測定・熱電係数測定等により、この物質の特異性、特に強い超伝導揺らぎの効果について明らかにする。
予定をしてた設備備品への投資が比較的安価に収まった。FeSe純良単結晶試料の作製環境の整備、及び極低温磁場中における精密物性測定の環境整備を行う。
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Physical Review B
巻: 89 ページ: 045101 -1, 10
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