研究課題/領域番号 |
24684036
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
長井 健容 東京海洋大学, 海洋科学技術研究科, 助教 (90452044)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 近慣性内部波 / 黒潮フロント / 乱流運動エネルギー散逸率 / 水温の微細構造 / サブダクション / 湧昇 / ソルトフィンガー / 二重拡散対流 |
研究概要 |
本課題では、黒潮フロントが蛇行することで発生する近慣性内部波の発生メカニズムとそれに関わる乱流散逸について現場観測と数値実験を用いて研究を行っている。平成25年度は、予定した大規模な海洋観測をJAMSTECの「かいよう」を用いて7月16から29日の間に実施した。観測では、黒潮から発生する近慣性内部波を準ラグランジュ的に流れや乱流を直接的に捕らえるため、水平絶対流速を計測することが可能な自律型プロファイリングフロートを3台と、乱流運動エネルギー散逸率を直接測定できるシアープローブセンサー、水温の散逸率を計測するFp07センサーを搭載した乱流計フロート1台を実験に用いた。同時に船舶を用いた黒潮横断および縦断観測を自由落下曳航型CTDや乱流計を用いて実施し、船底に搭載されているドップラー流速計ADCPを用いて水平流速の観測を実施した。大規模本観測を実施する前には、フロートの挙動実験を室内水槽および関東沿岸域で実施した。特に、これまで世界で前例のない乱流計搭載フロートに関しては、フロートの揺動が取得データに多大な悪影響を及ぼしうるため、その挙動をきちんと把握する必要があったため、海上技術安全研究所深海水槽と大島東水道で事前テストを実施した。また各検討事項について共同研究者らと事前に観測計画を綿密に練り、大規模観測を実施するに至った。観測によって、黒潮フロント直下および近傍には鉛直下向きと上向きのエネルギー伝播を示す近慣性内部波伝播しておりことが判った。これらの内部波の鉛直エネルギフラックスは、本研究で実施した数値実験で得た見積と同様なO(10mWm^-2)程度となった。また、乱流計フロートによって低塩分水が貫入する箇所で著しく大きな水温の分散の散逸率を黒潮流軸に沿って継続的に観測した。これは、黒潮直下の低塩分貫入層で二重拡散対流が活発に作用していることを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本課題申請時に提出した研究計画に記載した準ラグランジュ的な流速観測は、本年度に実施することが出来た大規模現場観測によって実現された。また、当初予定していなかった乱流観測フロートも実験的に実施したとこと予想以上の観測結果を得ることが出来た。具体的には、黒潮流軸付直下の水温微細構造が塩分の貫入に伴って著しい水温の微細な分散を広範囲に亘って生じさせていることを指し示す観測データは、これまで直接的に観測されたことが無いため、今後の解析結果によっては非常に貴重な情報であると言える。このため計画以上の進展とさせて頂いた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本年度の観測で得た現場観測のデータの解析を更に進め、同時に数値実験での観測結果の再現を試みる。まず、観測で得られた黒潮の蛇行に伴う近慣性内部波のエネルギー鉛直伝播方向の変遷傾向に関して数値モデルで再現を試みる。それには2次元の非静水圧モデルを用いて問題を単純化し、フロントに非発散の合流を与えたときにどの様なメカニズムで近慣性内部波が励起されるかを、モデル中の内部波エネルギーへの寄与項を詳細に調べることで明らかとする。同時にこのモデルに現実的な塩分分布を加え、フロントの蛇行を疑似した非発散の合流を加えて低塩分水のサブダクションを再現する。また、励起された近慣性内部波に伴う塩分の輸送を再現し、それらが作る塩分と水温の構造から二重拡散対流の指標となる種々のパラメータを計算する。計算したパラメータから二重拡散対流に伴う輸送量を調べそれらがどの程度長期的な塩分の分布に寄与し得るか見積もる。これらの結果を論文にまとめて投稿する予定である。
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