本課題では、黒潮フロントが励起する近慣性内部波に関して、そのメカニズムと定量を目的とした数値モデルと、現場観測を用いた研究を実施した。研究では、2013年7月にJAMSTEC「かいよう」を用いた現場観時に乱流・微細構造を測定できる自律型プロファイリングフロートと、海洋の絶対水平流速場の鉛直構造を測定できるフロートを複数、黒潮続流に投入し、黒潮続流流軸に沿った約900kmにわたる水温と塩分、流速・流向のデータと、300kmにわたる乱流・微細構造のデータを自律的に取得した。この観測によって得られた、黒潮続流下の流速分布は、その位相の上・下向きを示す近慣性内部に伴う帯状構造を示し、位相伝播が黒潮続流の蛇行と関係していることを示した。また、これらの近慣性内部波と、黒潮蛇行に伴う流動の鉛直シアによって、黒潮続流下900kmの深度150m以深の水温と塩分は、著しい熱塩フィラメント構造を呈し、二重拡散対流に好適であることがわかった。同時に観測した、乱流運動エネルギー散逸率は、熱塩舌状構造を観測した同じ領域では然程強くないにもかかわらず、微細水温分散散逸率は著しく大きいことから、この熱塩舌状構造内で、活発な二重拡散対流が発生していることがわかった。この結果は、地球物理学の著名な科学雑誌に掲載された。本論文で得られた結果は、黒潮続流の蛇行や近慣性内部波は、乱流だけでなく二重拡散対流を促進することを示唆する。非静水圧モデルPSOMを用いた数値シミュレーション結果は、黒潮の蛇行から、O(10kW/m)のフラックスを持つ振幅の大きい近慣性内部波が、何の海面強制力を与えずとも発生することを示した。しかし、モデル中の近慣性内部波は黒潮の水平流にその大半のエネルギーが再度吸収され、モデル中で大きなエネルギー散逸を引き起こしていないこともわかった。この結果は、海洋物理学の著名な科学雑誌に掲載された。
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