研究実績の概要 |
平成27年度は,平成24年度に開発した窒素同位体比の測定法,平成25, 26年度に開発した炭素同位体比の測定法を用いて,実試料への応用研究を進めた。1. 生物試料として,光学異性体が多く含まれているバクテリア(Bacillus subtilis等)の培養株およびキチン質を持つ天然生物(カニ・エビなどの甲殻類等),2. 環境試料として,海洋堆積物(相模湾と日本海),3. 宇宙に存在する有機物の生成や生命の起源の研究を念頭に,マーチソン隕石等の炭素質隕石,4. 対象試料として,実験室で化学合成したアミノ酸を用いた。その結果以下の4つの大きな成果が得られた。 1. バクテリアやカニ・エビなど生物由来のアミノ酸は,D体よりもL体の15Nが僅かに濃縮しており(1~2‰程度),これはラセマーゼの同位体分別と考えられる。2. 堆積物中のアミノ酸には,D体とL体の間に同位体比の差がほとんど無い(時間が経つと非生物的なラセミ化が進行し,均一化されてしまうためと説明される)。3. 隕石に含まれるアミノ酸にも,D体とL体の間に同位体比の差がほとんど無い(非生物的に合成もしくは分解されたアミノ酸には,D体とL体の間で同位体比の差を生じるようなプロセスがないと説明される)4. 実験室で化学合成したアミノ酸では,合成場の光学活性の偏りに依存して,D体とL体の間に同位体比の差が生じる(どちらかの光学活性物質の存在が,次の光学活性を生む原因・触媒となると考えられる)。 本研究により,生物試料から堆積物,隕石まで様々な試料に含まれるミノ酸の光学異性体レベルの炭素・窒素同位体比分析が行えるようになった。一方で開発した手法では,多くの種類の試料に対して,測定感度が不足しているため,分析手法の高感度化が今後の課題である。得られた成果は国内外の学会や研究会,論文等で公表済み,または,公表準備中である。
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