本研究では、動的共有結合であるイミン結合の平衡状態を構造および運動性の制御に適用することで、複数の意味からなる”動的構造制御”システムの構築を目的とし、以下の研究を行った。 ①イミン架橋型ロタキサンにおいて、高温状態でマクロサイクルがイミン架橋されて"止まり"、かつ低温状態で加水分解されて"動く"ことが可能になるヒドリンダセンステーション[A]に加え、温度依存性が逆となる芳香族ステーション[B]を見出した。このステーション上では、高温状態でイミンが加水分解され、低温状態でイミンが形成される。これにより温度変化によってイミン[A]⇔[2]ロタキサン⇔イミン[B]という3モード分子シャトルの構築に成功した。 ②ヒドリンダセン分子を回転子とするギア状分子として2枚羽根および3枚羽根を有するアロステリックレセプターを構築し、そのX線構造解析を行った。 ③イミン結合の動的共有結合性を利用したベルト状マクロサイクルおよび籠状分子構築において、どのような要因がイミン結合形成を促すかを調査した。πスペーサー間隔が異なる種々のジアルデヒド体を合成し、イミンマクロサイクルの形成能調査を行ったところ、マクロサイクル化が効率的に進行するには分子内でのπ-π相互作用が重要であることが明らかとなった。またこの知見を利用し、ポルフィリンやトリアリールベンゼンが2枚重なったイミン形成による籠状分子の構築に成功した。 ④イミン結合の動的共有結合性をアトロプ異性化と組み合わせることで「ゲスト適応型分子レセプターの動的構築」の形成段階を調査した。遅いアトロプ異性化能をもつ分子ではゲストが存在するときのみマクロサイクル化に適した配座をとりテンプレート合成が進行しマクロサイクルが効率的に形成された。このマクロサイクルはゲストに応じてアトロプ異性を示し、ゲスト非存在下でも形状を記憶する一種の分子メモリー効果を持つことを明らかにした。
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