本研究は、20π電子構造を持つ非芳香族性ヘミポルフィラジンから18πや22π電子構造を持つ芳香族性ヘミポルフィラジンを合成し、その芳香族性、スイッチ機能などの基礎物性を明らかにすることを目的としている。本年度は、1つのベンゼン部位と3つのイソインドリン部位から構成されるヘミポルフィラジン(ベンジフタロシアニン)に関して主に研究を行った。これまで周辺置換基のないベンジフタロシアニンの固体状態の分子構造に関する研究は行われてきたが、その溶液中での電子構造はほとんど調べられていなかった。そこで、かさ高いジイソプロピルフェニルオキシ基を有するベンジフタロシアニン(1)を設計、合成したところ、溶液中で18π電子構造をとることが明らかとなった。化合物1の反磁性環電流効果が小さいことがNMR測定から強く示唆され、化合物1は18π電子構造をとるにもかかわらず非芳香族性化合物であると帰属された。パラジウム炭素を用いて化合物1を還元したところ2電子還元された20π化学種(2)が得られた。化合物2のNMRスペクトルでは、環内部のプロトンが低磁場領域に観測され、化合物2が常磁性環電流効果を持つ反芳香族性化合物であると帰属された。化合物2は近赤外領域に強い吸収帯をもち、モル吸光係数は約2万であった。この結果は、過去に報告された20π反芳香族性ポルフィリン類縁体の長波長領域の吸収帯のモル吸光係数が小さいこととは大きく異なる。化合物2の特異な性質について量子化学計算を用いて解析し、近赤外領域の吸収帯が許容遷移であることは化合物の対称性が低いことに起因することを明らかにした。
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