研究課題
本研究は、バクテリアの形状だけでなく表面化学構造を精巧に転写した高分子膜を利用し、検出対象であるバクテリアの迅速かつ特異的な検出方法の開発を目的としている。前年度までの研究では、緑膿菌などのグラム陰性菌に対する鋳型膜作製と検出を行った。本年度は、グラム陰性菌だけでなくグラム陽性菌の鋳型膜作製と検出を試みた。グラム陽性菌である黄色ブドウ球菌や枯草菌の高分子膜への取り込みおよび吐き出しが電子顕微鏡により観察されたことから、負電荷を持つ細菌であれば、その形状、グラム陰性菌、グラム陽性菌の違いに関わらずバクテリア鋳型形成が可能であることが示唆された。黄色ブドウ球菌の膜からの脱ドープ率は93%と高く、極めて良好な鋳型形成が達成された。黄色ブドウ球菌鋳型膜を検出膜として使用し、黄色ブドウ球菌、大腸菌、緑膿菌、枯草菌に対する検出を行ったところ、鋳型と適合する黄色ブドウ球菌に対してのみ大きな検出応答が得られた。よって、高分子膜に刷り込まれたバクテリア鋳型が特異的に標的細菌を認識していることが明らかになった。また、検出時のバクテリア挙動を蛍光顕微鏡により追跡したところ、誘電泳動力の作用によりバクテリアが次々と鋳型へ捕捉される様子が観察されたことから、検出時に得られた周波数応答はバクテリアの鋳型への取り込みに起因していることが明らかになった。一方、検出電極に対する誘電泳動力の作用具合が感度に強い影響を及ぼすと考えられるため、高感度検出を達成するためには電極形状や周波数などの最適化が必要不可欠である。2次元静電界・静磁界計算ソフトを用いた誘電泳動力のシミュレーションを行った結果、対極形状については針状よりも丸みを帯びたコイル状の対極の方が本実験系に適していることが明らかになった。
1: 当初の計画以上に進展している
バクテリアはグラム陰性菌とグラム陽性菌に大別されるが、本研究では、どちらのバクテリアに対しても同一手法で鋳型膜作製が可能であり、高選択的な検出が達成された。得られた知見により、実分析への移行を円滑に進めることが可能になったと言える。また、検出時のバクテリア挙動追跡から、検出応答がバクテリアの捕捉に起因していることも明確に示されており、当初の計画以上に研究が進展していると考えられる。
大腸菌などの食中毒細菌をターゲットとした鋳型膜作製と特異的検出に取り組む。また、様々な環境下に置かれたバクテリアの形態観察やゼータ電位測定を行うとともに、形態変化がセンサ応答へ与える影響について調べ、本研究が実サンプル測定に適応可能か詳細な検討を行う。
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Research on Chemical Intermediates
巻: published online ページ: in press
10.1007/s11164-014-1609-6
Analytical Chemistry
巻: 85 ページ: 4925-4929
10.1021/ac3034618
http://www.nanosq.21c.osakafu-u.ac.jp/