[2.2]パラシクロファンは二枚の接近して向かいあうベンゼン環を有する化合物である。本研究では[2.2]パラシクロファンが有する二つの骨格的特徴に着目し、それを共役系主鎖に導入した新奇共役系高分子の合成ならびに物性解明に取り組んだ。特に、置換[2.2]パラシクロファンの面不斉発現に着目し、[2.2]パラシクロファン化合物の実用的光学分割法を開発するとともに、全く新しいタイプの光学活性共役系オリゴマーおよび巨大分子の合成を行った。 まず、光学活性π電子系鎖状二枚積層体、三枚積層体、四枚積層体、および環状三枚積層体を合成し、π電子系積層枚数が光学特性に与える影響を検討した。円二色性スペクトル測定において、オリゴマーはいずれも共役主鎖骨格に由来する吸収領域に、励起子分裂型の大きなコットン効果を示し、その異方性因子は積層枚数に依存せずに一定の値を示した。円偏光発光(CPL)スペクトル測定から、オリゴマーは明確にCPL特性を発現し、円偏光異方性因子の値は10の-3乗オーダーに達した。一方で、CPLスペクトルにおいてはπ電子系の積層枚数増加に伴い、異方性が増大することが確認された。この結果は、励起状態において光学活性な高次構造を形成することにより不斉増幅が起こっていることを示唆している。また、励起状態においてオリゴマーは折りたたみ構造を形成していることが分かった。 さらに、光学活性四置換シクロファンからなる環状化合物の合成に成功し、得られた化合物が高輝度かつ高異方性を有するCPLを発現することを明らかにした。
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