本年は、タンパク質の二次構造に相当するコンフォメーションを有する金属錯体アレイの設計指針を得ることに注力した。まず、アラニンと配位子としてターピリジンを導入したチロシンとから構成される種々のペプチドシークエンスを作成し、その二次構造をCD、IRスペクトルやSEM測定によって調べたところ、ペプチド鎖中におけるチロシンとアラニンの割合やペプチド鎖長を制御することにより、αヘリックス、βシート、βターン構造を作り分けられることを見いだした。次に、これらのシークエンスの配位子部位が金属錯体化された金属錯体アレイを合成し、その二次構造について調べたところ、αヘリックスに関しては構造の安定性を全く損なうこと無くRu(II)、Rh(III)、Pt(II)等種々の錯体を部位特異的に導入できることが分かった。これとは対照的に、βシートを形成するペプチドシークエンスに関して上記の金属錯体を導入した場合、βシート特有のCDパターンは完全に消滅することが分かった。以上の結果は、タンパク質に金属錯体を導入した場合に生じる構造不安定化の程度に極めて大きな構造特異性が存在することを示唆しており、タンパク質の錯体による修飾における重要な基礎的知見を与えるものである。また、金属錯体アレイの触媒としての性能を評価するため、固相合成用のレジンに連結した状態で、固定化触媒としての評価を行った。その結果、光水素発生、エポキシ化、アゾ化合物の二量化の触媒として機能することを確認した。
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