本年は、主として前年度の検討で得られた個々の二次構造を共有結合的に連結する合成手法の確立に取り組んだ。まず、ペプチド固相合成を用いてRu(II)、Pt(II)、Cu(II)、Ni(II)錯体のうち3つから構成され、末端もしくはシークエンスの途中に連結用官能基を有する4核錯体アレイを合成モジュールとして6種類作成し、これらの溶液中での連結により、8核錯体アレイの構築を試みた。異なる4種類のモジュールの組み合わせで検討した結果、いずれの場合においても、目的物の生成を質量分析で確認し、本手法が線形のみならずT字型やH型といった多様な形状のアレイの構築に適用できることが実証された。今回得られた目的物の分子量は8000を超え、小型のタンパク質であるユビキチンに匹敵し、タンパク質類似の金属錯体アレイ合成への道が開かれた。 前年度に見いだしたαヘリックスを形成するペプチドシークエンスにおいて、その二次構造に金属錯体シークエンスが及ぼす影響を詳しく検討したところ、Ru(II)、Rh(III)、Pt(II)それぞれのホモシークエンスと比べ、それぞれの錯体が一つずつ並んだヘテロなシークエンスではヘリックス含量の指標となる222nmにおけるCD強度がより大きく、金属錯体のヘテロシークエンスがヘリックス構造を安定化する可能性が示唆された。この結果は、金属錯体のシークエンス制御がもたらす「意義」の実例として興味深い。
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