研究課題/領域番号 |
24685024
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山田 亮 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (20343741)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 分子エレクトロニクス / スピントロニクス / 単分子接合 / 熱起電力 |
研究概要 |
1. ゼーベック係数の測定によるスピン依存電子状態の決定 ゼーベック係数は、単分子接合の透過係数の対数微分に比例しているので、ゼーベック係数の符号から電子状態のスロープを知ることができる。そこで、研究では、走査型トンネル顕微鏡を自作し、基板とプローブ間に温度差を加えた際に発生する熱起電力を測定した。 ベンゼンジチオール分子を用い、基板、探針がAuの場合、ゼーベック係数S = 7.4uV/Kと既報値(Reddy et al, Science, 315, 1568 ,2007)とよく一致した。基板、探針をNiの場合、S = -12 uV/Kとなった。AuとNiでは、仕事関数はどちらも5eV近辺で大きく変わらないため、ゼーベック係数の符号反転は伝導に寄与する軌道が電極との化学反応により大きく変化したことを示している。共同研究者(大阪大学 大戸助教)による第一原理計算の結果、Niの電子状態の影響により、伝導に寄与している最高占有軌道(HOMO)が、フェルミレベルよりも高エネルギー側と低エネルギー側にスピンに依存した分裂を起こすこと、および、フェルミレベル近傍でトータルの透過係数の傾きが正になることもあきらかとなり、実験で観測された結果が透過係数のスピン分裂によって引き起こされたことが裏付けられた。 2. 距離変調型ブレークジャンクションによる分子接合の確認 磁気抵抗効果などのスイッチング現象の測定では、観察された現象が分子接合の破断などによって引き起こされた物では無いことを確認する必要がある。研究では、電極間距離を微小変調させた際の電流変化から分子接合が維持されていることを確認する手法を開発し、磁気抵抗効果発現中に分子接合が維持されていることを証明した。信号の微妙な変化から、スピン配置によって電極・分子間の電子カップリングの状態が変化している可能性が見いだされた
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画の主軸であった低温での精密測定関連装置の開発はやや遅れ気味であるものの、研究目的であるスピン依存電子状態の解明に関しては、あらたに開発した熱起電力測定装置により世界ではじめて強磁性電極での単分子測定の測定に成功し、また、電子状態のスピン分裂の影響を明らかにした点で、想定以上の進展を見せたと言える。低温装置の開発も、共同利用により活用できる強磁場発生装置に組み込む装置を開発済みで有り、最終年度に展開可能な状況となっている。 これらの状況から、おおむね順調に進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度は、これまでに開発した装置を元に、研究計画としてのこっている長鎖π共役分子を用いた磁気抵抗効果の分子長依存性を測定する。分子にはこれまでに利用してきたオリゴチオフェン分子を利用する。この分子ではチオフェン5量体から23量体までを逐次的に測定できる。この測定により、分子/電極界面のスピン散乱および分子内部のスピン散乱の効果の区別が可能となる。また、17量体より長い分子ではホッピング伝導が発現することが知られており、伝導機構の変化による磁気抵抗効果挙動の変化を実測し、バルク有機素子において重要な有機物内のキャリアが伝導する際のスピン散乱効果を明らかにする。 さらに、接合の構造を明らかにするために極低温におけるトンネル分光および非弾性トンネル分光を実現する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
H25年度、10月より雇用した常勤研究員を継続雇用するため。本研究員は、H25年度より開始したあらたな研究内容である熱起電力測定を行う上で不可欠である。 人件費 4月~9月分(常勤手当 合計 280万円の一部にあてる)
|