単分子接合の構造を知る上で重要な分子の振動分光に相当する情報を得ることができる非弾性トンネルスペクトルの測定のため、極低温で動作する電極破断装置を作製し、繰り返し測定を行うためのソフトウェアを開発した。この結果、ほぼ自動で、単分子接合の形成から破断に至るまでの電気伝導度および構造変化を5pm程度の分解能で測定できるようになった。ベンゼンジチオールに対する測定結果から、電流による分子の振動励起が、接合の不安定性を引き起こしていることが明らかとなった。また、オリゴチオフェン分子に対する測定から、従来想定されていた分子末端部における結合以外に、オリゴチオフェン分子骨格部分でも電極との結合を形成することが明らかとなり、より高い電気伝導とスピン偏極率を達成する上で有利と期待されるパイ電子と電極の直接結合が可能であることが明らかとなった。 分子内に不対電子をもつ分子に対する電気伝導度・熱起電力測定を行った。理論計算との比較から、電極に接合されると伝導に寄与するフロンティア軌道のスピン分裂がよわくなるなど、孤立した分子の分子軌道から接合の特性を単純に予測できないことが明らかとなってきた。その他にも、種々の大型分子についての測定を行い、測定ノウハウおよび基礎データーを蓄積した。
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