研究課題
本研究では、アセチレンを明確な幾何配置に固定した環状共役分子(DBA)を用いて、多孔性の配位ポリマーや非共有結合性超分子構造体を構築し、物理的および化学的な水素吸蔵が可能な材料の開発を目的としている。DBAを用いることにより、アセチレンの熱力学的安定性が大きく向上し、さらに幾何的に明確に配置された複数のアセチレン同士の共同効果によって、水素分子などの資源ガスの物理吸着量の向上、および金属触媒の立体特異的な配位に由来した化学吸着が期待できる。これまでに、ヘキサデヒドロトリベンゾ[12]アヌレン(以降、T12と省略)と種々のガス分子との親和性を計算化学的手法により評価し、カルボキシル基、カルボキシフェニル基、およびイソフタリル基を周囲に3つ導入したT12誘導体(1、2、3)と種々の金属種との錯形成によって5種類の配位ポリマーを合成した。これらは、単結晶X線構造解析の結果いずれも結晶内部に大きな空孔が存在し、その空孔はチャネルによって連結されているため、ガス吸蔵には適した構造である。本年度は、これらの構造体の活性化を検討した。配位ポリマーの合成の際に包接された高沸点極性分子を、低沸点分子に置き換えるために、MOFをエタノールに浸漬させて構造変化をX線回折や固体蛍光分光によって追跡した。その結果、DBA 3と亜鉛イオンから構成されるMOFは、構造を保ったまま溶媒が交換できることを明らかにした。しかし、これに続く加熱・減圧による活性化では、いずれのMOFもその構造が崩壊することがX線回折より明らかとなった。このため、非極性溶媒への交換を行った後の超臨界二酸化炭素を用いた活性化などについても鋭意検討中である。さらに、T12以外のDBAの合成とそれを用いたMOFの構築も行った。これらはいずれも配位ポリマーを与えることが明らかとなった。
3: やや遅れている
これまでに、DBAと水素、窒素、および二酸化炭素との分子間相互作用を計算化学的手法(非経験的なab initio法)によって評価した。また、C3対称性のヘキサデヒドロトリベンゾ[12]アヌレン(T12)を基盤とし、カルボキシル基、カルボキシフェニル基、およびイソフタリル基を周囲に2つあるいは3つ導入した4種のT12誘導体を合成し、それらのDBAと金属(亜鉛および銅)イオンを用いて合計5種類の多孔性構造体を構築した。X線構造解析によりその構造体の構造、空孔の形状と大きさ、および空孔表面の化学的環境を明らかにした。また、T12とは異なる幾何構造をもったDBA誘導体(ドデカデヒドロトリベンゾ[18]アヌレン(T18)、オクタデヒドロトリベンゾ[14]アヌレン(T14)、およびオクタデヒドロジベンゾ[12]アヌレン(D12))の合成についても順調に進んでいる。さらに、予備的知見ではあるが構造体の空孔表面に露出したDBAへの遷移金属種の配位についても確認されつつある。一方、これらの多孔性構造体の活性化(配位ポリマーの構造を維持したまま、構造内の空孔に取り込まれた溶媒などの分子を除去し、ガスなどの吸着が可能な状態にすること)に解決すべき問題点がある。これまでに、構造を保ったまま溶媒が交換できることを明らかにしたが、これに続く加熱・減圧を行う従来の活性化法では、いずれの構造体もその構造が崩壊することがX線回折より明らかとなった。このため残った空孔に対するガス吸着挙動も再現性が低い状態である。より剛直で安定な配位形式について検討して分子を設計すると共に、非極性溶媒への交換を行った後の超臨界二酸化炭素を用いた活性化などについても鋭意検討中である。
今後は、まず今年度に引き続き、(1) カルボキシル基あるいはピリジル基の位置や数が異なる新たなDBAを合成し、種々の金属種を用いて配位ポリマーの構築を行う。次いで、(2) 配位ポリマーの活性化に最適な条件を確立する。従来から行ってきた溶媒交換に続く加熱・減圧による活性化の検討を行うと共に、非極性溶媒への交換を行った後の超臨界二酸化炭素を用いた活性化などについても検討する。その後活性化を行った構造体を用いて、(3)多孔質構造体の内壁にあるDBAへの金属触媒の担持とその構造解析を行う。X線光電子分光(XPS)により構成元素の同定を行うとともに、固体UV-vis、IR等の分光スペクトルをモデル錯体のそれと比較する。さらには(4) 窒素、二酸化炭素、酸素などの汎用ガスに加えて水素、メタン、アセチレン、一酸化炭素などの資源ガス・高反応性ガスの吸着実験を行う。特に水素ガスについては、金属未修飾構造体と金属修飾構造体との吸着量を比較することによって化学吸着量を評価し、DBAに配位した金属のスピルオーバー現象への関与を明らかにし、そのメカニズムを提唱したい。また一方で、配位ポリマーとは別に、カルボン酸やカルボン酸アミン塩が形成する水素結合によってDBAを連結し配列を制御した多孔質超分子構造体の構築についても合わせて検討を行う。これにより、軽量でかつ成型性に富んだ有機物質の特性を利用した集積アセチレン分子から構成される多孔性物質の開発への道筋をつける。
本年度の後半に、二酸化炭素の超臨界相を利用した多孔性構造体の活性化を行う予定であったが、当該装置の研究室への導入が遅延したため、実験にともなう種々の消耗品および学会での研究結果の発表のための旅費等について来年度への繰り越しが発生した。来年度は、超臨界二酸化炭素発生装置を利用した、温和な条件下での多孔質構造体の活性化を行う。さらに、空間内部の遷移金属の修飾やガス吸着実験を行い、海外の共同研究者の施設における共同研究を前進させる。
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