研究実績の概要 |
高い一重項分裂効率を示す材料群の創出と有機薄膜太陽電池(OPV)での200%に迫る光電変換効率を目指す。構造を明確に規定できる中・低分子材料を中心に開発を進め、共鳴構造の寄与により小さい基底一重項/三重項エネルギー差が期待できる、ビラジカル性化合物を量子化学計算により予測し新材料を設計する。9,9’-ビフルオレニリデン(BF)は、1,1'-および8,8'-位H同士の立体障害により両フルオレン平面は約33°の二面角を持ち、二重結合のねじれによりビラジカル性を有し、E(T1)の低下が期待される。TD-DFT計算よりS1は2.91 eV、T1は1.20 eVであり、E(S1) > 2・E(T1)の関係を満たすことから、BFは一重項分裂性材料として有用であると考えられる。BFを主骨格に持つ新規分子を合成し、p型材料としてBF誘導体、n型材料としてPC70BMまたはPDIF-CN2を用いたOPVを作製し、光電流の磁場依存性から一重項分裂特性を検証した。ベンゾチアジアゾールとビチオフェンからなる置換機を導入した36BFでは、π共役の拡張により吸収波長が長波長化した。アクセプターであるジケトピロロピロールとの共重合ポリマーPBFDPPでは、吸収はさらに長波長化し吸光度も増加した。これらの材料をp型材料とし、n型材料にPC70BMを用いたバルクへテロ型OPV素子では、PBFDPPにおいて最大4.9%の光電変換効率を達成した。PDIF-CN2をn型材料に用いた素子において光電流の磁場依存性を検証した。P3HTをp型材料に用いた素子では磁場依存性を示さなかったのに対して、PBFDPPをp型材料に用いた素子では、印加磁場に伴い光電流が低下した。これはT1準位のゼーマン分裂による一重項分裂速度の低下に起因する光電変換効率の低下を示している。
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