本研究の目的は、半導体量子井戸と表面弾性波の性質を融合した「ダイナミック量子ドット」を実現し、スピン物性の解明と新しいスピン制御法の実現を通じて、スピン量子情報伝送手段としての基盤技術を開拓することである。 平成25年度は、輸送中のスピン緩和抑制および量子化準位の光検出を目的として、測定系の改良に取り組んだ。具体的には既存の光学窓付希釈冷凍機に高周波信号を導入できるように同軸ケーブルを配線するとともに、フォトルミネッセンスおよびKerr効果測定のための光学測定系の構築を行った。実験では100 mK以下において表面弾性波の印加時にフォトルミネッセンスが明瞭に減少する様子が観測されたことから、極低温下においても光励起キャリアが効率的に輸送できることが確認された。一方、ダイナミック量子ドットの量子化準位をPLEにより識別する実験も試みたが、この手法では量子化準位に起因する離散的なスペクトルは検出されず、輸送経路の電界制御を利用することや、静的ドットを介して励起状態を検出するなど別のアプローチが必要であることが分かった。そこで、ドリフト輸送中のスピンダイナミクスを理解するための実験や、静的量子ドットの光学特性の音響制御に関する実験も行い、スピン量子情報の長距離伝送にも重要な役割を果たすと考えられるスピン軌道相互作用や音響フォノンに関する知見を得た。 これまでに得られた成果については、国際会議(うち3件招待)や国内会議(うち1件招待)、解説記事3件などを通して、外部発表を行った。
|