研究実績の概要 |
スピントロニクス材料を用いた新規物性の創出には、薄膜界面での磁気相互作用の理解が必須である。特に、電圧印加による物性制御が注目されており、スピン依存伝導特性の評価から議論が多く行われているが、電子状態の観点から電圧印加時の物性を捉える必要がある。そこで、申請者が手がけてきた「試料作製」,「電子分光測定」,「伝導測定」を組み合わせて初めて可能となる、電圧印加時の電子分光法を新しく構築することを進めてきた。この技術を用いて、界面キャリア注入時の電子状態(フェルミ面の軌道対称性)を調べ、誘起する強磁性の発現メカニズムを明らかにすることを目的として研究を進めてきた。 特に2014年度は、磁性体と非磁性体(酸化物など)との界面に誘起される磁性の制御を達成することを目的として、素子構造を工夫し、軌道磁気モーメントの増大や近接効果による磁化誘起を調べた。
本目的を達成するには、磁性元素別の電子・磁気状態の観測が必要となる。そのためには、放射光をもちいた電子分光が有力となる。申請者が進めてきたX線吸収分光(XAS)、X線磁気円二色性(XMCD)の実験手法を活用して、測定パラメータとして外場を追加した新規分光法を開発した。2014年度は、上記の目的達成に向けて、遷移金属合金と半導体の界面における軌道磁気モーメントの増強を誘起する系および界面近接効果により非磁性体に誘起される磁性の探索を行った。前年度に開発したXMCD手法と組み合わせることにより、素子構造に依存したスペクトル形状の変化についての知見を得た。これらの結果を投稿論文としてまとめている段階であり、本研究課題により、界面での軌道磁気モーメント増大のメカニズムに関する成果が得られた点が大きい。今後、外場印加電子分光が発展する礎となる研究が進展した。
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