研究課題/領域番号 |
24686009
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研究種目 |
若手研究(A)
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
早澤 紀彦 独立行政法人理化学研究所, 近接場ナノフォトニクス研究チーム, 副チームリーダー (90392076)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 走査プローブ顕微鏡 / 光物性 / 非線形 / 超短パルス / ラマン分光 / ナノチューブ / プラズモン / 近接場光学 |
研究概要 |
非線形振動分光法の広帯域化とその近接場増強についての研究を積極的に推進した。特に3次の非線形振動分光手法である、コヒーレントアンチストークスラマン散乱法(CARS)に注目した。CARSでは通常異なる周波数を持つピコ秒程度の狭帯域パルスレーザーを使用し、この2本のレーザーの周波数差を検出したい分子振動の周波数と一致させることでCARS信号を発生させる。つまりレーザーが2種必要であるだけでなく、同時に検出できる分子振動は1つであり、異なる分子振動の検出にはレーザーの周波数を変化させる必要がある。本研究では、1つのフェムト秒レーザーのみを使用し、周波数変化をする必要なく、同時に複数の分子振動を検出する手法の開発を行った。具体的にはフォトニッククリスタルファイバー(PCF)に10ofs級チタンサファイヤレーザーを導入することで広帯域白色光パルスを発生させた。この本広帯域白色光パルス内に同時に複数の周波数を有する分子振動周波数を内包することが可能となりCARS信号として検出可能となる。試料として液晶分子である5CBを用いることで、5CBの4つの異なる分子振動を同時に観測できることを示し、さらに液晶分子の3次元配向方向が決定できることを示した。また、液晶中に金ナノ微粒子を導入することにより、電磁気学的な電場の増強効果が発生することを確認し、CARS信号が金ナノ構造の近傍で増大することを確認した(論文準備中)。今後近接場プローブへ応用できると期待される。 近接場プローブとしては、極めて大きな進展があった。つまり、近接場プローブの再現性の低さから、分析技術としてのポテンシャルが制限されていたが、極めて簡便かつほぼ100%の再現性で電場増強効果を得られるプローブ開発技術を構築し、20nmの空間分解能でイメージングが行えることを示した(J.Raman Spectrosc. 2012掲載)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
特に可視一近赤外に関しては、プラズモン増強電場の極めて優れた再現性を達成し、分析技術としての確立に大きな進展があった。再現性は研究当初はそれほど重視している項目ではなかったが、大きな進展であった。また、上述したような、空間領域だけでなく、時間領域においてはフェムト秒パルスとフォトニック結晶ファイバーにより広帯域白色光を発生させることに成功し、広帯域CARS信号を検出さらに金ナノ微粒子を近接場プローブとみたてることで信号増幅できることを示した。今後、再現性の向上したプローブと広帯域非線形分光との融合に展開できる準備が整いつつある。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、近接場分光においては再現性に大きな課題の残る手法であったため、非線形分光およびそのパルスレーザーを使用することから可能となる超高速分光への展開はほぼ無かったといえる。これは再現性だけの話ではなく、ナノ領域からの信号は極めて微弱であり、通常信号は時間を費やして検出することで強度をかせぐ。つまり、本研究のように、空間だけでなく、時間領域をも制御することは信号レベルとして極限的になることは容易に想像される。一方で、今年度の成果である高い電場増強効果を示す近接場プローブと、非線形応答の期待できる分光手法との融合は、この信号強度を飛躍的に向上することが可能であると期待され、さらにプローブの再現性も向上したことから、質の高い研究に移行できるものと期待している。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度で購入する計画としていた、超短パルスレーザー(パルス幅10フェムト秒)は予算が不足し、断念せざるを得なかった。そこで既存のパルスレーザー(100フェムト秒)にフォトニック結晶ファーバーを融合することで広帯域パルスを発生させることへ変更し代用することとした。それによる広帯域CARS信号の高感度検出のため、当初計画していなかった、ロックイン検出器を購入した。これらの計画の微変更に伴い、基金分を平成25年度へ繰り越し、10フェムト秒レーザーや液晶空間光変調器の購入を再検討することとしている。
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