昨年度開発した、走査トンネル顕微鏡(STM)方式の先端増強ラマン分光法(STM-TERS)を高度化・安定化するために、装置のコンパクト化に取り組み、独自に設計した金属製チャンバー内に導入した。本チャンバーは真空にも対応できるが、大気圧での測定に取り組むため、チャンバー内をドライ窒素で置換し、高安定下することに成功し、STM-TERS測定が可能であることを確認した。本チャンバーにより、温度変化としては±0.1ºCかつ湿度を0%とすることが可能となり、STMの動作性能を格段に向上することができ、1~2nm/minに熱ドリフトを抑制できた。 また、STM-TERSによるナノチューブの測定では、その測定中にナノチューブのD-bandの増加や、STM像の変化が確認された。要因の1つとして、STM金属探針先端での電場増強効果によって、局所的な温度が上昇しダメージを与えていることが考えられる。局所的な温度の上昇は、今後、温度に敏感なバイオサンプルを扱う上で、極めて重要であり、その温度を正確に把握しておく必要がある。局所的な温度を測定する手法として、ナノチューブの低周波数振動モードであるラジアルブリージングモード(RBM)に注目し、そのアンチストークスとストークスラマン散乱を同時に検出出来る測定手法を構築した。まず従来型である原子間力顕微鏡を用いたAFM-TERSにおいてRBMを同時測定することで、その強度比をボルツマン分布に適応し、実際に試料が感じている局所的な温度を見いだすことが可能となった。532nmレーザーを50uW程度入射したAFM-TERS測定から、局所的な温度上昇は30~50℃程度であると見いだされた。入射光子密度から見積もるとSTM-TERSにおいては200℃を超えていると仮定されたことから、チューブ内の欠陥箇所を中心にダメージを与えていた可能性があると考えられた。
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