機能性流体を脳組織に見立て,流体に対して直接切断等の操作を行うことで,術具の交換が容易であり,微細な力覚が提示可能な脳外科手術シミュレータ用力覚提示装置の開発を行っている.H28年度は,機能性流体を用いた力覚提示装置に生体組織の変形計算に基づいた視覚提示機能を追加したEncountered-type Visual Haptic Displayを開発した.MR流体容器の上部にスクリーンを設け,そこにプロジェクタを用いて生体組織のCG映像を投影することで力覚提示と視覚提示の位置を同じくし,より現実感の高い手術シミュレータを実現した.一例として,ナイフで紐状の生体軟組織を切断し,その際の視覚情報と力覚情報を同時に同じ箇所で知覚できるシステムを構築した.ナイフに赤外線マーカを取り付け,モーションキャプチャ装置によって,ナイフの位置姿勢を取得し,刃の位置を強制変位点として生体組織の変形計算を行い,その際のナイフにかかる力を計算した.得られた変形量をCGで描画し,プロジェクタで投影した.また,ナイフにかかる力を指令値として,MR流体に印可する磁場を制御した.本内容を国際会議Asia Haptics 2016にて発表し,Honorable Mention Awardに選出された.このシステムでは,MR流体によって発生させる抵抗力は開ループ制御により制御していたが,より精度の高い抵抗力提示を行うために,力センサを用いた閉ループ制御についても検討した.本研究グループの過去の研究において,MR流体を入れる容器に力センサを取り付け,閉ループ制御を行っていたが,電磁コイルの近くに力センサを設置することとなり,磁気的ノイズにより正しく力を測定できない可能性があった.そこで,ナイフの持ち手部側に歪みゲージを取り付け,提示力を測定可能とし,容器側の力センサを不要とした.
|