研究課題/領域番号 |
24686031
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
尾上 弘晃 慶應義塾大学, 理工学部, 講師 (30548681)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | マイクロ流体 / 細胞 / 組織工学 / ハイドロゲル / マイクロファイバー / MEMS / 3次元組織 |
研究実績の概要 |
平成25年度は当初の研究実施計画に基づき、平成24年度に開発した様々な種類の組織に由来する細胞ファイバーを、シリコーンチューブ及びシリンジポンプを用いて自動的に操作する技術の開発を行った。その結果、細胞ファイバーの直径とシリコーンチューブの内径により、流体の抵抗が支配的に変わることが認められた。この事実は、細胞ファイバー操作の自動化及び機械織りによる3次元組織構築において、細胞ファイバーの直径を精密に整えることが重要であることを示唆している。これにより、細胞ファイバー操作による3次元組織構築と、構築した組織の機能発現を両立するためには、細胞ファイバーの径と組織の機能の関係をより詳細に調査することが重要であるという課題が見いだされた。 この課題に対し、神経幹細胞を封入した細胞ファイバーのコア部とシェル部の直径を変化させて、内部の分化誘導に関わる機能がどのような影響を受けるかを遺伝子発現レベルで調べた。それによると、シェルの厚さが厚くなるほど、またコアの厚さが薄くなるほど、神経幹細胞からニューロンへの遺伝子マーカーの発現量が多くなることが見出せた。 また同時に、シリコーンチューブとポンプを用いた機械操作による3次元組織構築以外の手法にも着手した。細胞ファイバーをバンドル化することで神経束と類似の構造が構築できる可能性がある。これを実現するために、神経幹細胞を用いた細胞ファイバーを培地からつり上げることで、表面張力を利用した細胞ファイバーのバンドル化に取り組んだ。その結果、神経幹細胞ファイバーを48本バンドル化する事に成功し、それをフィブリンゲルにより被覆することで安定したバンドル形状の3次元組織の構築に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の研究到達目標は、細胞ファイバを機械織りする技術の安定化により、3次元組織構築の手法としてファイバを基軸とた技術基盤の確立である。実際に、細胞ファイバを内径1mmのシリコーンチューブで吸引することにより、培養液中でヒモとして扱う技術を完成させ、順調に研究目標が到達できた。その際、細胞ファイバの外殻の直径が細胞ファイバの操作に影響を与えるという知見も見出し、この技術による3次元組織構築の際、重要となってくるパラメータを見出した。 また、3次元組織化した際の細胞機能についても、評価を行った。特に細胞ファイバの直径を変化させた時の神経幹細胞の分化誘導の効率、および組織形態について実験を行った。結果、直径が細くなるほど、神経の樹状突起・軸索がファイバ長軸方向にアライメントされることを見出した。これにより、3次元組織構築を細胞ファイバを用いて行う際、そのビルディングブロックである細胞ファイバのデザインに関する知見を得られ、機能的な3次元組織構築のための指針を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
細胞ファイバをビルディングブロックとすることで、3次元組織ん構築、およびその生化学的・組織学的な評価を行う。組織形状を構築後は、シェル部のアルギン酸ゲルを除去することにより、細胞とECMという元来の生体組織内にある素材のみで組織構築が可能となる。具体的には、本年度課題によって行った神経幹細胞による分化誘導能の評価結果をベースに、神経幹細胞の細胞ファイバをバンドル化し、人工組織による神経束の構築を試みる。その他にも、血管細胞を用いた神経ファイバーを作成し、他の組織と合わせることによる血管付き組織の構築にも試みる。これらの組織構築を通じ、本提案手法の有効性の評価を行い、応用を見据えた基盤技術としての確立を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は当該年度に、広範囲を観察可能なデジタルマイクロスコープの購入を検討していたが、本年度の研究の実施により、細胞ファイバの活性の評価が重要であり、機能的な3次元組織構築のために優先して行うべき課題であることが判明した。そのため、デジタルマイクロスコープの購入計画を変更し、細胞ファイバ内での神経幹細胞組織の構築が成功し次第、共焦点観察が可能であるディスク型操作ユニットを検討することとしたため。
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次年度使用額の使用計画 |
細胞ファイバ内部の組織形態の評価を行うために、共焦点観察が可能とするユニットの購入を検討している。具体的には、本研究課題の初年度にて購入した倒立型蛍光顕微鏡に、ディスク型操作ユニット(DSU)を装備させることで、共焦点観察を行う。
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