研究概要 |
磁気記録では,情報が磁性微粒子の磁化の向きとして記録されており,デバイスの高帯域化には磁化の反転をいかに高速化するかが重要である.今後の進展が期待されるGHz帯においては,磁場の変化と磁化の緩和が同程度の時間で起こるため,双方が時間に依存するダイナミクスの効果が表れる. 本課題では,磁化と垂直方向の外部磁場の印加により誘起される,大振幅の歳差運動を通じた非可逆磁化反転の実現・また,その挙動を時間分解で明らかにすることを目指す.当該年度は,主に高速に立ち上がるパルス磁場の発生技術の確立に注力し,およそ1μm角の領域に,磁場振幅4kOe,立ち上がり時間70psの面内方向のパルス磁場を実現できた.パルス発生器は伝送線路の充放電による方法を用いて試作・改良した.この手法と,異常Hall効果によるナノ磁性体の磁化挙動の高感度測定を組み合わせることで直径100nm程度の垂直磁化Co/Pt多層膜ナノドットにおける磁化反転実験を行った.面内パルス磁場の立ち上がり時間を70ps~4nsの範囲で変化させて磁化反転実験を行った結果,立ち上がり時間が70psのときのみ反転磁場の著しい低下がみられた.この現象は,磁化の緩和よりも速く磁場が変化したために磁気トルクが有効に発生した結果と解釈することができ,Landau-Lifshitz-Gilbert方程式に基づく数値計算の結果とも定性的に良く一致した.この成果は,現実の磁気記録では10kOeを超えると想定される大振幅の磁場においても,GHz領域では立ち上がり時間による磁化ダイナミクスの効果が無視できないこと,また,より積極的に制御することにより,記録書き込み時の反転磁場の大きさを低減できることを示唆するものである.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究においては,歳差運動誘起による磁化反転を実現するため,ピコ秒領域で立ち上がる大振幅磁場の実現が必須であるが,磁場振幅4kOe,立ち上がり時間70psが実現できており,当初の目標を達成できたと考えている.
|