研究課題/領域番号 |
24686038
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
菊池 伸明 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (80436170)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 磁化ダイナミクス / 磁気記録 / パルス磁場 |
研究概要 |
磁気記録に代表される磁性体を用いたストレージデバイスでは,デジタル情報は磁性微粒子の磁化の向きとして保存される.そのため,デバイスの高帯域化には,磁化の反転をいかに高速化するかが重要となる.今後の進展が期待されるGHz帯においては,磁場の変化と磁化の反転・緩和という現象が同程度の時間領域で起こるため,双方が時間に依存する動的挙動の理解が重要となる. 本課題では,磁化と垂直方向の外部磁場の印加により誘起される,大振幅の歳差運動を通じた非可逆磁化反転の実現・また,その挙動を時間領域で明らかにすることを目指ししてきた. これまでに,本課題で開発した磁場振幅4kOe,立ち上がり時間70psのパルス磁場を用いたCo/Pt多層膜ドットの磁化反転実験を行ってきた.その結果,高速に立ち上がる磁場を,磁化と直交する方向に印加することにより,反転磁場が30%低下することが明らかになっている. 本年度はLandau-Lifshitz-Gilbert方程式に基づく数値計算を進め,その磁化反転の軌道の解析を行った.その結果,実験に用いたドットは100nm程度と非常に大きいにも関わらず,全体の磁化が一斉に回転するとのモデルにより反転磁場の挙動が良く説明できることが明らかとなった.また,実験においては,反転挙動の実時間計測のための準備を行ってきた.しかしながら,信号強度の観点から実時間計測は困難であり,周波数領域においての計測でより有用な知見が得られるとの判断を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに,高速なパルス磁場により大振幅の歳差運動を誘起することで,非可逆な反転磁場を静的な磁場に比べて30%低減できることを実験的に明らかにした.この点においては,非常に大きな成果が得られたと考えている.しかしながら,実時間における磁化反転挙動の計測は,測定感度の観点から困難であると想定され,周波数領域での測定に取り組むこととした.この点を勘案し,達成度はおおむね順調との判断とした.
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに,100ps以下で高速に立ち上がるパルス磁場により歳差運動を誘起し,非可逆反転磁場が低減できることが明らかとなった. 本年度は,より小さな反転磁場を実現できる構造の探索を計画している.より具体的には,高磁気異方性の層と低磁気異方性の層の異なる磁性層を積層した構造における不均質な歳差運動に着目し,種々の磁気パラメータや,立ち上がり時間やパルス長などの磁場パラメータとの相関を探る.具体的な磁性材料としては,Co/(Pd・Pt)多層膜を想定している.また,より高速なパルス磁場発生を目的とし,パルス磁場発生機構の最適化を行う. また,磁化反転時のダイナミクスを実時間で計測することは,測定感度の面から困難である.そこで,GHz帯での大振幅の歳差運動の挙動について,周波数領域での測定にも取り組んでいく計画である.
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は,主に既存の装置・施設を用いて,試料および測定系の最適化と計算機解析を行ってきた.そのため,高額な機器の購入を必要としなかったため,次年度使用額が発生した. 前年度に,試料および測定系の最適化を行い,高出力の高周波磁場が必要であることが明らかになった.この結果をもとに,高出力のパワーアンプの導入を計画している.
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