研究概要 |
1.世界初n型電子誘起強磁性半導体の開発に成功 低温分子線エピタキシャル法を用いて、InAs半導体にFeを最高9%までドーピングしたことに成功した。高解像度透過電子線顕微鏡を用いた結晶構造解析によって、(In,Fe)Asが正四面体Fe-As結合を有する単結晶であることを確認した。さらに(In,Fe)AsにBeのダブルドーナ或いはSiのドーナを同時ドーピングすることによって、母体の(In,Fe)Asに自由電子を提供できた。自由電子の密度が6×1018cm-3以上になると(In,Fe)Asは強磁性を発現することを明らかにした。また、磁気円二色性(MCD)による半導体バンドのスピン分裂の観測を行い、InAsの光学特異点において、MCDが大幅に増大することを観測し、(In,Fe)As半導体のバンドがスピン分裂していることを確認した。この結果により、開発した(In,Fe)Asが真性なn型電子誘起強磁性半導体であることを確認した。 2.世界初の8回対称磁気異方性の発見 製作した(In,Fe)Asの異方性磁気抵抗効果を調べたところ、電子濃度が少ない場合、(In,Fe)Asは2回対称および8回対称の結晶性磁気異方性を持つことを明らかにした。この8回対称の磁気異方性は今まですべての磁性体において、観察されたことがなかった。従って、(In,Fe)Asにおいては初めての観察になる。この8回対称は4回対称の成分の組み合わせによって発現できることを提案した。また、電子濃度が増えると、8回対称が消滅して、2回対称の軸が90度回転したことを見つけた。 3.電子の有効質量の測定および強磁性発現メカニズムの解明 熱電ゼーベック効果を用いた、(In,Fe)Asの電子有効質量を測定した。その結果、電子の有効質量が0.03-0.17m_0(m_0は自由電子の質量)と非常に軽い。この結果は伝導電子が有効質量の重い不純物帯ではなく、伝導帯に滞在することを明らかにした。従って、(In,Fe)Asにおける電子誘起強磁性はs-d交換相互作用によって説明できることを示した。
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