本研究は,コウモリの効率的な超音波センシングの仕組みと,その合理的な運用方法を実験及び理論に基づいて明らかにし,生物が有する機構や設計思想に基づいた新しいナビゲーションアルゴリズムとして提案することを目的としている.具体的には,①室内人工環境下における障害物回避飛行,および②野生コウモリの高度な飛翔採餌中の音響行動の動態計測を行い,その行動分析を行う.さらにコウモリの行動実験の結果に基づき,簡単な実機による超音波センシングの実証実験の取り組みも行う. 当該年度の成果としては,①室内に障害物環境を構築し,未知から既知の空間へとセンシング行動を変化させる過程を計測した.その結果,飛行経路が安定化と,センシングの回数の低下,またパルス放射方向の変化などを捉えることができた.これより,コウモリが空間マップを形成し,障害物回避などの飛行ルートには,何らかのルールがある可能性も示唆された.現在投稿に向けて執筆中である.また②野外実験では,垂直方向に拡張したマイクロホンアレイを用いて,パルス放射方向を軌跡とともに3次元で計測することに成功した.また連続した採餌の際のパルス放射方向がどこに向けられていたのか,ビーム幅の計測と同時に詳細に捉えることができた.さらに,これまで飛行ルートの分析に用いていた数理モデルを拡張することでacoustic attentionの分析を行い,飛行と音響の両者の相互関係について考察を行うことができた.こちらも投稿に向けた執筆を進めている. またコウモリの行動に基づき簡易な超音波センシングを搭載した自律走行車に関して,複数物体検知のアルゴリズムを搭載し,さらに障害物回避の数理モデルを組み込んだ試作機を作成した. 研究の統括として,当初計画していた室内,野外での行動実験の解析を深化することができ,かつ数理モデルを用いた行動分析の試みも順調に開始することができた.
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