研究概要 |
本研究は,台風予測に特化した高効率で高精度な台風災害外力モデリングシステムを新たに開発し,可能最大級台風の上陸を想定した日本全国の台風災害ポテンシャルを評価することを目的としている. 台風災害外力モデリングシステムとは,台風の時間発展を計算するメソ気象モデルと台風初期値化を行う台風渦位ボーガスによって構成される.メソ気象モデルに対しては,高潮と海洋混合層の構造を同時に計算できる海洋モデルと双方向に結合している.また,自動追尾型移動ネスティングを組み込むことで,高効率かつ高分解能に台風内部構造を計算できるような改良も加えられている.一方,台風渦位ボーガスは,軸対称台風渦位モデルと渦位逆変換法により構成される他に類を見ない力学的な台風初期値化法である.台風渦位ボーガスによる台風初期値化の際には,入力条件として台風環境場の情報が必要となる.本研究では,伊勢湾台風や室戸台風などといった可能最大級台風を多数の進路で直撃させる必要があり,更には,多数の温暖化シナリオを台風環境場にも反映させる必要がある.このような台風環境場を合理的に設定するために,台風渦位ボーガスに対して渦位部分分解をベースとする新たな台風環境場設定法を導入した.具体的には,渦位を渦位平均場と渦位偏差場に分解し,それぞれに適切な改変を加え,渦位の可逆性原理を利用し逆変換を施すことで改変された台風環境場を得る.この渦位平均場に対して温暖化に伴う渦位変化量を加算することで「擬似的温暖化実験」が可能となった.また,この渦位偏差場に対して適切な改変を施すことで気圧配置の改変が可能となり,これによって例えば「伊勢湾台風を東京湾に直撃させる」といった事例に縛られない任意の地域への展開が可能となった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
台風災害モデリングシステムの大部分が完成し,すでに現在気候の計算として観測史上最大の日本への接近数(19個)および上陸数(10個)となった2004年全29事例の台風を対象とする強度予測実験を実施し,Emanuel et al.(2004)の軸対称2次元台風モデルに比べてより精度が高いことを実証しており,計画以上の成果を得ている.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,完成した台風災害モデリングシステムを使用して,現在気候および将来気候のダウンスケール実験を実施し,相互に比較することで温暖化による台風強大化への影響を定量化する予定である。全球モデルによる温暖化データについてはReading大学気象学部Vidale教授の研究グループより入手することとなっているが,現在,データベース化が進められている途上にあり,研究期間中に入手困難となった場合には,従来の入手可能なCMIP3もしくはCMIP5で代用する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は,今年度完成した台風災害モデリングシステムを使用して、疑似温暖化実験を中心とした再現計算を実施する予定である。レーダーデータ同化システムの導入は利用可能なレーダーデータに台風を表現する上での時間的・空間的な制限があることから導入を見送ることとした.そのため,直接経費の一部を次年度に繰り越した上で,当初計画に入っていなかった1年間通年での疑似温暖化実験を次年度に実施することとした.これによって,疑似温暖化実験の妥当性を全球モデルとの対比により検証できるようになる.
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