微生物のストレス指標を解明するための大腸菌の培養系を確立した。培養系の1つは本研究課題で開発した超小型の微細気泡発生装置を組み込んだものである。大腸菌を植菌したM9最小培地に、Airの微細気泡を供給する微細Air培養、Airの粗大気泡を供給する粗大Air培養、純酸素の微細気泡を供給する微細O2培養、純酸素の粗大気泡を供給する粗大O2培養の4種類の培養を行った。粗大O2培養では大腸菌の増殖が認められないこと(静菌効果)を確認した。各培養系の増殖速度の比較、大腸菌マイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析、イメージングフローサイトメトリーによる細胞形状解析等を行った。以下に述べるようにこれらの解析が有効であったのは対象微生物や培地およびガス供給方法等の培養条件が適切に調整できたためである。その結果、次のような有用な知見を得ることができた。 純酸素供給で細胞内に活性酸素が大量に生産されると思われるが、これにバブリング等のストレスが加わると、大腸菌は活性酸素による酸化ストレス応答のほかバブリングや振とうによるストレスへの対応が必要になり、上記培養条件では生きているが増殖できない状態にあったと考えらえた。 バイブリングや振とうは大腸菌細胞にストレスとなり、その応答として大腸菌は鞭毛や繊毛運動にエネルギーを費やす。この運動のためのエネルギー消費は定性的だが相当に大きいようである。本研究では、酸素呼吸のための活性酸素応答、繊毛・鞭毛運動、細胞外多糖類の生成がエネルギー消費が大きいストレス応答であると考えられた。活性酸素は酸素呼吸の場合であり、繊毛・鞭毛運動と細胞外多糖類の生成は粗大バブリングや振とう培養のようなせん断ストレスのかかる培養の場合である。細胞の制御は、ストレス応答に要するエネルギー消費の大きさを考慮して、これらの主要なストレスの組み合わせを考えることにより実現できる。
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