研究概要 |
研究初年度には以下に示す研究を開始した。 (1)都城内の中央やや東側に位置するM78/79サイトでは,カンボジア政府文化芸術省との共同体制により考古学的発掘調査を実施した。矩形の周壁と複数の内部煉瓦遺構が検出されたが,一般的な寺院施設とは異なる構成であり,都城内における官衙施設である可能性が推察される。 (2)このサイト内では,シドニー大学考古学部のTill Sonnemannの協力のもと,地中レーダ探査を実施し,より面的な遺構の分布を確認した。これによって周壁中央の煉瓦遺構に南側から参道となる線状遺構が確認された他,サイトの西側にも異なる矩形遺構の存在が認められた。 (3)M78/79サイトを含むこれまでの発掘調査による土器を中心とした出土遺物の目録化の作業を,早稲田大学Chhum Menghongの協力のもと開始した。 (4)都城の環濠や周辺に分布する大小の溜池においては,大阪市立大学原口強らの協力を得て,計60本のボーリング調査によって堆積物のコアリングを完遂した。現在資料分析を進めているが,古代都市の築造年代についての解明を試みるほか,過去の気象変動の解析より本遺跡の歴史的趨勢に環境が与えた影響について分析する。 (5)遺跡群内に保存されている多数の煉瓦造遺構の建造過程を解明するために,早稲田大学内田悦生の協力のもと,XRFによる煉瓦の化学組成分析を行った。これによって少なくとも2回の造営時期に区分されることが推定されつつある。 (6)煉瓦造遺構の再構築修復工事のための手法の研究を,プラサート・サンボー寺院の主祠堂の修復工事を通じて進めている。現地では,メコン大学So Sokunthearyが工事監督を行い,工事の進展に伴い必要となる材料開発や補強方法の研究に取り組んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していた各研究を同時並行で進めているが,初年度に予定していた地形測量を行うことができなかった。これは,ユネスコやカンボジア政府を中心として,対象となる遺跡において航空測量を実施する可能性がでており,この研究事業と足並みを揃えるために,実施を保留しているためである。
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次年度の研究費の使用計画 |
都城イーシャナプラの内外を含む航空測量の実施を初年度に計画していたが,各機関との調整中であり,そのための予算を次年度に移行した。二年度目にこの調査の実施を検討している。また,発掘調査による出土遺物の目録化を進め,プレ・アンコール期における土器変遷について分析を図る。
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