研究課題/領域番号 |
24686068
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
下田 一太 筑波大学, 芸術系, 助教 (40386719)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | カンボジア / アンコール遺跡 / クメール / 都市史 / 建築史 / インド化 |
研究実績の概要 |
古代都市イーシャナプラ(サンボー・プレイ・クック遺跡群)にて以下の調査研究を実施した。 1. 2km四方の〈都城〉地区内全域に規則的に分布する計21地点での発掘調査:17地点において土器などの遺物を含む文化層が確認され,広域にわたって都城内が利用されていたことが確認された。それらの文化層は浅い所では10cmの深さ,深い所でも90cmの深さから検出され,文化層の厚さ自体も1m以下であった。概ね同一の標高に薄く文化層が広がることから,それらに時期差はないものと考えられ,プレ・アンコール期の特徴を示す土器が多いことから,王都が最も繁栄したと考えられる7世紀を含む比較的短期間の文化層であると推測された。これまでの寺院区や古代都市の北側地区では厚い文化層が確認されていたのとは対照的な結果である。また,土器を中心とした出土遺物の整理を進め,器種組成と編年確立に向けた基礎資料の作成を行った。 2.〈都城〉地区中央に位置する大型のマウンドM090サイトでの発掘調査:南北80m,東西30m,高さ3mほどの規模を有する都城のほぼ中央に位置し,都城内では最大規模のマウンドにおいて発掘調査を行った。ラテライトと煉瓦よりなる遺構が良好な状態で埋蔵されていることが確認された。全体像は定かではなく,今後の追調査が必要だが,高さ2m程のラテライト造の擁壁に囲まれた構造と,再利用の煉瓦構造という少なくとも異なる二時期の遺構が確認された。 3.煉瓦祠堂の建築学的調査:〈寺院〉地区に位置する煉瓦祠堂の立断面図の作成を進め,建築学的な形式分類に取り組んだ。 4.プラサート・サンボー寺院主祠堂の修復工事に関連した調査:祠堂の東面と南面の部分的解体再構築工事を行い,それに伴う煉瓦積みの構造的特性に関する調査を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
〈都城〉地区内での重要なサイトにおける考古学的発掘調査が順調に進み,それぞれ成果を挙げている。これまでに本研究ではM78/79サイト,M65サイト,M90サイト,そして都城内の広域分布トレンチ調査,環濠西辺・北辺調査に取り組んだ。これらの発掘調査によって都城の空間的・時間的利用状況を解明する手掛かりが得られつつある。また,発掘調査による出土遺物の目録化を進め,プレ・アンコール期の最重要遺跡である当サイトにおける器種組成とその変遷について,かなり鮮明なものとなりつつある。建築学研究の上で最も基礎となる遺構の図面集の作成についても良好な保存状態の遺構を全て網羅した資料集成がほぼ完了した。これは三次元レーザースキャニングと写真測量を用いたもので,全ての図面はCADによって作成されている。また,こうした図面資料をもとにして,建築形式の分析を進め,アンコール時代とは全く異なる煉瓦造遺構の多様な計画性が明らかとなってきた。これまで懸念であった,遺跡群全域の航空測量調査(LiDAR)についても,2014年3月にカンボジア政府文化芸術省とフランス極東学院との連携によって実現し,今後半年ほどの期間をかけてデータの解析を行う予定である。これによって,遺跡群全域の詳細な地形図が獲得され,都市構造の解明に大きく寄与することが予想されるため。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度の研究計画は以下のとおりである。 1.平成26年度に引き続き都城中心に位置するM90サイトでの考古学的発掘調査を継続する。2.遺跡群北側に位置し,プレ・アンコール期とアンコール期の両時代にわたって建立されたことが建築学的に明らかなRobang Romeas,Srei Krup Leak寺院における発掘調査を実施する。3.土器を中心とした出土遺物の整理を進め,今後の研究に備えたデータベースを構築する。4.航空測量調査から遺跡群全域の地形図の作成,そして遺構分布をイメージ化した解釈図を作成する。5.プラサート・サンボー寺院主祠堂の修復工事西面を進め,修復過程で得られる建築的特徴を整理する。6.遺構目録・図面集を完成し,英文による出版物の準備を進める。寺院地区の建築学的調査を中心とした第一巻と都城地区における考古学的調査を中心とした第二巻の二分冊として作成を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
現地調査に当たって工具などの消耗品を予定よりも安価で購入できたため。
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次年度使用額の使用計画 |
研究報告にあたって資料整理のための経費に充てる予定である。
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