研究課題
量子細線や量子ドットなどの低次元量子構造は、バルクとは完全に異なる物性を所有することから古くから注目されている。理論的には、有機化合物中に金属鎖を形成させると、高温でも超伝導を示す系や、半導体や絶縁体内に1次元の金属伝導パスを形成させると、超伝導が出現する可能性が指摘されている。我々は半導体や絶縁体などの結晶内部に導電性量子細線を形成させる媒体として、結晶の線欠陥、すなわち「転位」に注目する。転位は、結晶中の原子配列が不連続になった線欠陥であり、その周囲に生じる弾性ひずみ場においては、ひずみ緩和のためにしばしば溶質元素の偏析が起こる。また、弾性ひずみ場では、溶質元素の拡散速度が完全結晶領域と比べて速くなる(パイプ拡散)ことが知られている。このような転位特有の性質を利用して、添加元素を転位に沿って拡散させて転位芯近傍に偏析させることができれば、溶質元素を1次元的に配列した量子細線構造を創出することが期待される。転位を利用した意図的な溶質元素の1次元的配列、ならびにそれに伴う材料の特性変化を成功させた報告は、これまでのところ皆無に近い。転位における偏析現象の解析が小ささゆえに困難であり、溶質元素偏析の有無が確認できなかったためであると考えられる。最先端の収差補正透過走査型電子顕微鏡(STEM)では、0.1nmを超える空間分解能をも所有する。また、技術革新とともに高角環状暗視野像法(HAADF)を利用できるようになり、原理的に極めて原子直視性が高い、さらに組成識別能に優れた像を得ることができる。また、STEMと電子エネルギー損失分光法(EELS)を組み合わせることによって、原子スケールでの材料組成マッピングや化学結合状態が分析可能になってきている。
1: 当初の計画以上に進展している
引き続き、成功しているバイクリスタル法をさらに活用して導電性細線の配列を試みる。様々な小傾角粒界や安定なΣ粒界が形成すると予測される接合結晶方位関係を用いる。直線的な転位配列が形成されているか、汎用透過型電子顕微鏡の暗視野像で評価する。
転位を直立させるような方向で、約10μmまで機械研磨された後、イオンミリング処理によってさらに薄片化を行い、転位が貫通している状態で、試料表面に金属を蒸着する。Ar雰囲気下での熱処理で金属を転位に沿ってパイプ拡散させ、導電性量子細線を形成させる。第一原理計算に基づく、電子状態計算、電子輸送特性のシミュレーションにより、導電性量子細線の電流輸送機構の本質を解明する。計算の中で金属を変更して物性の改善を予測する。
恒常的必要な酸化マンガン基板の取り寄せに時間を要し、年度内の納入が間に合わなかった。次年度に主な経費として使用するものは、成果報告の旅費、論文投稿料に分けられる。国際会議での成果報告のための渡航費、論文投稿料などを計上する。
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