研究実績の概要 |
EMCD信号強度は測定の幾何学的条件に大きく依存し、絶対値からスピンモーメントの大きさを知ることはできない。近似的には、スピンモーメントとEMCD信号強度の間に比例関係が成立し、測定条件を組み込んだ理論計算によりその比例定数を推定できると考え、スピンモーメントの大小評価を試みた。測定系は、比較的大きな結晶磁気異方性をもつ六方晶Coを対象にした。透過電子顕微鏡内の対物レンズの磁場(~2T)においても磁気異方性により磁化に結晶方位依存性をTEMサンプル加工したCoは示す。 測定領域の資料厚みを変え、EMCD強度を測定し、その厚み依存プロファイルを難磁化方向と容易磁化方向で比較したところ、有意な違いが見られた。さらに表面酸化の影響を考慮し、算出した磁気異方性はマクロな磁化曲線から予測されるものと誤差の範囲で一致した。この研究結果ことから、EMCDの理論計算と実験を、測定の条件をそろえることで、物質情報であるスピンモーメントの大きさを相対的には評価できることが実証された。 これまでは金属試料について電解研磨法において約50nm以下にまで薄片化したFeやCoにおいてEMCD計測を行ってきた。これは、イオンミリング法では、要件を満たす試料厚みの試料が得られないものという認識からであった。最新のイオンミリング装置を用いて、薄片化をより精密に行ったところ、FeにおいてもEMCDが観測された。電解研磨法が困難な酸化物試料においても、顕著なEMCDシグナルが得られた。 EMLDにおいては、EMCDが明瞭に確認できた酸化物試料を用いて測定を試みた。再現性のあるスペクトル変化がFe-L2,3端において得られ、通常の結晶異方性が無い系において初めてEMLDの測定に成功したものと考えられる。このことは、さらなる理論計算および入射方位を変えた測定で追加検証が必要である。
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