【緒言】強誘電体は,FeRAM(強誘電体メモリ),非線形光学効果による光学フィルター,ピエゾ(圧電)素子,などとして広く実用に供されている次世代材料である.強誘電体にとって物性を支配する重要な構成要素となるのが,ドメイン分極間の境界いわゆるドメインウォールである.本研究では,所定の分極方位関係を持つ単一ドメインウォールを作製し,その物性を評価する.作製されたドメインウォールの構造を電子顕微鏡を用いて解析を行うとともに,半導体パラメータアナライザによりドメインウォールに沿った二次元的な電気伝導性の発現を試みる. 【手法】分極方向が制御された強誘電体単結晶基板2枚から,それぞれの分極方向が互いに反転するように重ね合わせ熱処理を行うことにより,強誘電体双結晶を作製する.これにより,所定の分極関係を有するドメインウォールを結晶内部に導入できる.接合前には,基板表面に丁寧に研磨および洗浄を施す.接合の際には,なるべく低い温度と低い荷重で接合を達成できるように配慮し,結晶界面以外における拡散現象を抑制する.その後,双結晶から電子顕微鏡観察および物性評価用試料を切り出す. 【結果】 (1)所定のドメインウォールを有する強誘電体双結晶の作製に成功した.ビルトアップ的手法で単一のドメインウォールを有する結晶の作製に成功したことは顕著な結果である.(2)単一のドメインウォールについて,走査型透過電子顕微鏡法による構造解析を行うことに成功した.(3)局所にチャージを有するドメインウォール(Tail-to-tail型)において,透明かつ絶縁体である強誘電体結晶中であるにも関わらず,顕著な電気伝導性を示すことを発見した.強誘電体結晶を用いた新奇デバイス開発の可能性を開拓したと考えている.
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