研究概要 |
材料の破壊は時に重大事故を引き起こすため,その抑止は材料の信頼性を担保する為に必須である.材料の靭性を表すパラメータの一つとして破壊靭性値が挙げられる.この破壊靭性値というマクロな破壊力学特性はThomson(1986)らを中心として端を発した「破壊の物理」によって,「亀裂と転位との相互作用」というミクロな材料科学的見地から取り扱う事の出来る物性値となった.そこで本研究では,弾性力学の範疇に留まっていた従来の亀裂-転位相互作用に関する破壊力学研究を真の原子論的破壊物理に発展させることを目的とする.そのために,収差補正付きの高分解電子顕微鏡法を用いた格子像解析により,亀裂先端近傍の格子点の平衡位置からの偏倚を計測し,転位内部応力を起源とする亀裂先端応力遮蔽場を格子歪場として直接可視化する.また,離散的転位動力学計算により予測される巨視的破壊靭性の向上もまた遮蔽応力場の存在によって生じている事を,原子スケールでの歪場測定により実証する. 本年度は収差補正付きの高分解能電子顕微鏡を用いる転位近傍の格子歪場測定法の確立を行った.試料には膜面が(110)のシリコン単結晶を用い,高温三点曲げ試験によってノッチ先端から転位を発生させた.その試料を,手研磨の後にPIPSを用いて薄膜化する.ただし,PIPSで単純に薄膜化したのみでは,イオン照射によるダメージで像質の低下がまぬがれない.そこで,体加速イオンミリング装置を用いて最終仕上げを行い薄膜化で避けられないダメージを劇的に軽減した.膜面に垂直に導入された完全転位の高分解能観察を行い転位芯周辺の原子の平衡位置からの偏倚を計測し,格子歪場の測定を行った.
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