構造物中のき裂が開いている場合は超音波で計測できるが、圧縮残留応力や界面酸化により閉じたき裂では超音波が透過してしまうため検出できない。本研究では、“局所冷却との融合による閉じたき裂の3次元非線形超音波映像法”を創出することを目的とする。本年度は、下記3項目を実施した。
[1]き裂閉口応力の推定:き裂の閉口応力は、き裂の進展速度に影響を与える重要因子だが、これまで現場での測定法は無かった。そこで本年度は、昨年度、現場でも適用可能なき裂閉口応力推定法を構築した。これは、き裂に作用する引張熱応力がき裂閉口応力を上回ると、き裂が線形フェーズドアレイ(linear phased array: PA)で映像化されると仮定する。実際に実験で、PAによりき裂を映像化しながら、熱応力負荷を行い、き裂先端が映像化される時間を測定した。次に、その時間に作用する熱応力を、昨年度までに構築した解析解に基づき算出した。これにより、本研究で用いた閉じた疲労き裂試験片のき裂端部の閉口応力が推定され、過去の実験値とも一致した。 [2]作用する熱応力は、同じ加熱・冷却条件でも、材料の物性値、特に熱伝導率により異なる。そこで本年度は、アルミニウム合金A7075とステンレス鋼SUS316Lに閉じた疲労き裂を導入し、材料依存性について検討した。その結果、熱伝導率の大きいA7075では、閉じたき裂を開口させるのに十分な熱応力が作用する時間は短く、熱伝導率の小さいSUS316Lでは長いことが分かった。また、これらの結果は解析的に検討した結果とも良く一致した。これにより、材料ごとの適切な熱応力負荷方法の指針が得られた。 [3]粗大結晶粒のステンレス鋼SUS316Lに閉じた疲労き裂を導入し、熱応力負荷と荷重差分の組み合わせの実証試験を行った。その結果、差分前は過小評価されたき裂深さが、差分により高精度に計測された。これより、粗大結晶粒材料においても本手法が有効であることが実証された。
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