人間活動の発展に伴い環境中に放出された人為起源の放射性核種は、世界各国の共有財産である大気・海洋に放出され続けている。さまざまな人間活動に伴う地圏および海洋環境への負荷経時変化を定量化するために、海藻試料に刻印された放射性核種(ヨウ素-129、セシウム-137)と陸上樹木中の放射性核種を実測し、人間活動に伴う影響の変動情報を得ることを試みた。H26年度は、原子力災害前から原子力災害後の海藻試料、原子力災害後の福島の樹木中の放射性核種の動態調査を行い、以下の結果を得た。 1)本研究では過去の海洋環境が刻印されている海藻を用いて過去の海洋環境中のヨウ素-129濃度を再現することを試みた。約100年間の海藻のヨウ素同位体比(I-129/I-127)を加速器質量分析計で高感度分析を行ったところ、最も海洋への負荷が高かった時期は、核実験時代であることがわかった。原子力災害後の福島沿岸のヨウ素同位体比は、近年のセラフィールド周辺のヨウ素同位体比より数桁低いことが分かった。 また、海洋環境への負荷経時変化の定量化に必須である海藻試料中のヨウ素同位体分析に用いるアトグラムレベルのヨウ素-129の生体標準試料の作製をめざし、AMS分析のクオリティーコントロールに重要な標準試料を開発した。 2)森林の放射性セシウムの環境動態解析を行い、樹木中の放射性セシウムの取り込み経路に関する情報を得た。フィールド調査と室内実験より、セシウムの取り込みルートを検証したところ、葉と樹皮の表面からセシウムが樹木内に転流することを実証した。
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